よあけとあさひ
「そうだ、ヨルくん」
先生と別れてから、わたしとヨルくんはいつものベランダに行った。頰に風を感じながら、わたしは深い青色の封筒をヨルくんに差し出す。
「これ、もしかして」
「うん。手紙、書けたから。遅くなってごめんね」
「いや、嬉しい。ありがとう、アサ」
「それと、これも。小説の続き書いたから、ひまだったら読んでね」
「やった! すぐに読むよ」
心の底からうれしそうに笑うヨルくん。封筒と小説ノートをぎゅっと抱きしめてから、わたしの頭を撫でた。
わたしはびっくりして固まる。すると、ヨルくんも驚いたようにピタリと動きを止めた。
「わ、わり……なんか、つい撫でて……ほんと、ごめん」
「ふふっ……ヨルくん、必死すぎ!」
ふたりで見つめ合って、それから同時にぷっと吹き出す。
「イヤじゃなかったから、大丈夫だよ」
「え、イヤじゃない……?」
とたんに、パチパチと目を瞬かせるヨルくん。その反応を見てはじめて、わたしは変なことを口走ってしまったことに気がついた。口から「わわ……」と変な声が洩れる。
「……と、とにかくっ、それ読んでね! じゃあ!」
「ちょ、アサ……!」
急いでベランダから病室に戻る。バクバクと飛び跳ねるように動く心臓。病気に支障が出てしまうんじゃないかってほどにドキドキしている。
「わたし、なんであんなこと……」
ーーイヤじゃなかったから、大丈夫だよ。
わたしは、ヨルくんに触れられるのはイヤじゃない。びっくりはしたけれど。
頭を撫でられたり、手をつないだり。
そのたびに、ほわほわとあたたかい感情がうまれるんだ。
この気持ちは、なに?
その答えは、わたし一人だけでいくら考えても出てこなかった。