よあけとあさひ

2. ふたりだけの夏祭り


 世間一般で言う『夏休み』が終わりに差し掛かると、この病院では大きなイベントが開催される。年に一度、自由に病院の中庭を出歩いてもいい『虹かけ祭り』。この病院の名前が『虹掛(にじかけ)病院』だから、そこから名前をとって虹かけ祭りと言われている。

 たくさんの先生と看護師さんに見守られながら、夜九時まで外にいられるという夢の日だ。


「『虹かけ祭り』だって! アサ、俺と一緒に行こうよ」


 張り出されたポスターを見て目を輝かせるヨルくん。手紙を渡した時と同じ反応だった。

 断る理由なんてもちろんないから、うん、とうなずく。平然としているふうにしながら、実はわたしの心臓はバクバクと音を立てていた。


 だって、まさか。
 ヨルくんから誘われるなんて。


 毎年、わたしにとっての『虹かけ祭り』は少しだけ美味しいものを食べて、少しだけ外の空気を味わえる程度のもの。あとはすぐに病室に戻って、黙々と小説を書いていた。

 だから、こんなに楽しみな虹かけ祭りははじめて。



「……すごく、楽しみ」

「俺も楽しみ。アサと一緒なんて、楽しいに決まってるよな」



 ひまわりみたいな笑顔を浮かべるヨルくんがまぶしい。

 はやくお祭りの日にならないかな。だいたいあと一週間。少しでもかわいくしなきゃ。


 わたしはぎゅっとこぶしを握って、小さな決意をした。
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