よあけとあさひ
*・*・*・


「今日のアサ、いつもよりすごくかわいいよ」


 わたしを見たヨルくんの最初のコメントはそれだった。


 オシャレした服装と髪型、変だって思われないかな……。浴衣は着られないから、ワンピースだけど……ちゃんと似合ってるのかな。


 そんなふうに考えてずうっと不安になっていた数分前のわたしに言いたい。ちゃんと褒めてもらえたよって。


 あっという間に日が巡り、いよいよ虹かけ祭り当日。待ち合わせ場所は中庭の大きな木がある場所にした。

 外の空気と目に映る緑の葉にいやされていると、そこに登場したのがヨルくんだった。


 ヨルくんはわたしを見てしばらく棒立ちになっていたけれど、頰をわずかに赤らめてそのままわたしの手を握った。


 ドキッ。
 鼓動が高鳴る。

 大丈夫、わたしの心臓はまだちゃんとここにある。


「なんか食べるか、アサ」

「わたし、いちご飴が食べたいな」

「よし、行こう」




 虹かけ祭りでは、わたしたち患者の体調をいちばんに考えて、糖質やカロリーが抑えられた食べ物が売られている。それでもできるだけ甘く、美味しくつくられているから、わたしは屋台の食べ物が大好きだ。



「ちょっと待ってろよ、アサ」

「うん」


 いちご飴の屋台に行くと、ヨルくんは繋いでいた手をスッと離して、チケットを取り出した。ここではお金の交換ではなく、事前に買っておいたチケットで商品と交換するんだ。



……手、離れちゃったな。

 さっきまでたしかにあったぬくもりが急に離れてしまったから、何にも触れていない右手ってこんなにさみしいんだっておどろいた。

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