よあけとあさひ
「アサ、こっち」
空いていたベンチまで、いちご飴を両手に持って運んでくれるヨルくん。わたしがちゃんとベンチに座ったのを確認してから、慎重な手つきでいちご飴を渡してくれた。
「ありがとう、ヨルくん」
微笑むと、ヨルくんはそれ以上の笑顔をみせてくれた。
……あ、好き、だな。
ふと、急にそう思った。自分でもびっくりして、いちご飴がガリっと音を立てる。
ずっと、この気持ちはなんだろうって考えていた。ヨルくんの笑顔にドキドキしたり、悲しくなったり、思いが伝わらないことにヤキモキしたり。
なんだろう、なんだろうって。
こんなに心臓がドキドキして、触れられると嬉しくなるのはどうしてなんだろうって。
でも、答えはこんなにすぐそばにあったんだね。
ーーわたし、ヨルくんのことが好きだよ。
ヨルくんをじっと見つめながら、心の中でつぶやく。もしもこの心の声がヨルくんに聞こえていたとしたら、そしたら、ヨルくんは何て言ってくれるかな。
そう思っていると、ふいにヨルくんがふわりと目を細めて笑った。さっきのような目一杯の笑顔じゃないのに、わたしの心臓はわしづかみにされてしまったようにドクドクと鼓動をはやめていく。
……明日、この心臓は他の人のものに変わる。だから、どうか。
この瞬間、ヨルくんにドキドキした気持ちを、どうか忘れないで。ずっとずっと、覚えていたい。
ヨルくんはまっすぐにわたしを見つめている。
いち、に、さん。
数秒間、わたしたちは見つめ合った。
がやがや、ざわざわと騒がしい周囲の音が、その瞬間ぜんぶ消える。
まるで、ふたりきりの世界にいるみたいに。