弟は離れることを、ゆるさない
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「琴音!ボール拾って!」
体育の授業中、グラウンドの隅で体育座りをしている私の元に一つのテニスボールが転がってきた。元気いっぱいにラケットで打ち合いをしていた紗絵から大きな声で呼ばれる。
私は転がってきた球を拾い、それを紗絵に手渡した。
「まーた、暗い顔してどうしたの?」
紗絵は私に細い目を向けながら顔を覗き込む。私が何を考えているのかが分かってますと言わんばかりに、
「皇くんと喋れたんでしょ?」
葵のことを質問してきた。なので私も紗絵に甘える。
「葵、私と姉弟イヤなんだって。そんなに嫌われてるなんて知らなかった」
「まー、嫌われてなきゃ三年も話さないよね。普通そんなもんよ。私も弟から『死ね』って一日一回は言われるんだから」
「……紗絵の弟も紗絵に隠し事してる?」
「そりゃああるよ。私も弟に言いたくないことあるしねー」