弟は離れることを、ゆるさない
葵は重ねられる人がいるだけでいいんだ。
『――琴音が俺の想い人の代わりになってくれるなら、もう女遊びは止める』
重ねられる人が手っ取り早く、身近にいれればそれだけでいいんだ。例えそれが私じゃなくても、お母さんでもいいんだと思う。そう考えたらゾッとした。
もし仮にお母さんに女遊びはやめてとお願いされたら、母にも同じことをお願いするんだろうか。
「…………やだ、やめて。葵とそういうことしたくない」
葵の胸板に手を当てぐっと離す。
「葵がどんなツライ恋愛をしているのか分からないけど、私やお母さんみたいな、身近な人に近づくのはダメだよ。家族だけは赦されない」
「おまえは俺の味方なんだろ。そんな口だけはいらないって言ったよな」
「味方だよ。これからもずっと。でも、私はその子の代わりになってあげられない……」