弟は離れることを、ゆるさない


「――うん」


今はまだ普通の姉弟らしい会話ができている。

お風呂から上がると私達は一線を超えてしまう。


怖い。そういう関係になってしまうことが怖い。めちゃくちゃな抱かれ方をされるかもしれない以前の問題で、私はもう、葵と普通に接することはできなくなる。


頭の中で自問自答を繰り返しながら、「もう一時間経つぞ」と言う葵の声で、やっと浴槽から出る決心をする。


部屋着に着替えて髪を乾かしていると、葵がカップを持って私の前に現れた。


「途中でバテられても困るから。ちゃんと水分摂れよ」

ドライヤーを置き、差し出されたカップを受け取り口をつけると葵は自分の頭に手を当てながら「まあ」と口を開いた。


「そんな緊張すんなよ」

「不安の方が大きいよ……姉弟でなんて、墓場まで持っていかなきゃいけないことを、葵はしたいんでしょ」


意地悪な聞き方をしてしまっている。

それでも葵は「じゃあやめるか」とは言わない。


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