言葉足らず。
 相川先生の言葉に、私はえへへ、と苦笑する。

 何時にかかってこようがどれだけ呼び出されようが、私は非通知の電話に出るつもりはない。かけ直す術も、私にはない。非通知設定である以上、着信拒否もできないし。
 こんなことをしてくるひとに、おおよその心当たりはある。それに内容もおおよそ見当がついてしまうからこそ、私は電話に出ることを避け続けていた。

「じゃあね、」

 お疲れさま、と、言いながら医局のある3階で降りた先生たちを見送って、私は再びスマートフォンを取り出す。着信履歴は、すっかり“非通知設定”で埋まってしまっていた。

 その文字列を見ただけで、私の気分は憂鬱なものになる。
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