言葉足らず。
 もういちど小さくため息を吐いて1階に着いたエレベーターを降りると、向かいのエレベーターから同じ化学療法チームの同期が降りてきた。

「お疲れさま、成海。」
「真野…!」

 薬剤部に戻る廊下を歩きながら、成海が泣きそうな顔で聞いてよお、と、表情通り泣き言を口にする。

「どうしたの、」
「外科の高幡先生って知ってる?」
「し…、ってる、けど、」

 成海の口から聞かされた、その名前。私は知っているどころか、できれば聞きたくない名前として記憶している。
 答えに少しだけ迷ってしまったのも、そのせいだった。
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