涙雨を極甘なチョコに溶かして


 私を軒下に引きとめたのは、不愛想な低い声で。


 背中に突き刺さったこの声って、まさか……

 表情をこわばらせながら、私は体を半回転させた。


 私の後ろに立っていたのは、紫髪の美少年。

 だるそうに目を細め、閉じた傘を地面と平行に寝かせ、手の上で転がしていて


「たっ、たまき……くん……」


 夢を見ているとしか思えない驚愕の状況に、全身の筋肉がピキッと固まってしまった。


「お化けに出くわしたみたいな顔で、俺を見ないで」


 そっそりゃ、、、お化けかもって思っちゃうよ。

 なんで環くんはこの病院にいるの?

 修也くんに会いに来たんだとしても、面会時間は終わっているわけだし。

 しかも今は夜8時過ぎ。

 雨がしとしとと降っているこの状況で、お散歩中とは思えないんだけど。


 無表情で瞳を陰らせながら、じーっと私を見つめる環くん。

 私は逃げたい。

 この場から。

 今すぐに。

 写真部の部室で二人きりだったお昼休みのことを思いだし、気まずさが私の心中にグワッと込み上げてくる。

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