苦手だったあなたへ
「はい!今から会いに行こうと思ってて、今先生どこにいますか?家?それか……」


―――月葉、後ろ見てごらん。


「えっ……。」


もしやと思って振り返った。


でも、先生の姿は見当たらない。


「先生、だましたでしょ。全く、そういうイタズラは……ぎゃっ」


「ざんねーん、俺は後ろでした。」


不意に後ろから抱きつかれて肩がビクンと跳ね上がった。


「ちょ、どうやったんですか!?」


「にしても『ぎゃっ』って、可愛げのない声を出すな。」


失礼な……脅かしてきたのはどっちなの?


繋がっていた電話を切って、先生に向き直った。


「先生、私ついに卒業したよ!」


「おめでとう。じゃ、早速お祝いしに行こうか。」


先生に手を掴まれてタクシーに乗せられた。


「えっと、このビルの前までお願いします。」


運転手さんに何か説明をしてから、後部座席に腰かけてシートベルトをした。


「どこ行くんですか?まさかホテル!?」


「バカ、どんだけ夢見てんだよ。いいから黙ってついて来い。」


運転手さんはくすくすと私たちの会話を聞いて笑っていた。


恥ずかしい……。


「そうだ、卒業証書見せてよ。」


「あ、これです。」


赤の造花が付いた黒い筒を渡すと、パカっとそれを開けて紺野先生はまじまじと眺めた。
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