苦手だったあなたへ
「え、月葉ありがとな。」


私を見て驚いた顔をしたまま片付けを進めた先生。


紺野先生は優しいから体育委員を委員会活動以外であまり起用しないけど、私体育委員だしね。


「よし、月葉のおかげですぐ終わったわ。」


「そうですか、良かったです。」


私が2人きりなのに堅苦しい話し方を辞めないからか、先生は私の顔を覗き込んできた。


「な、なんですかっ……?」


ドギマギして尋ねると、先生は首を横に振って元通り歩き出した。


なんか変だったかな……?


まぁなんでもいいや、と思って私も普通に歩き出した。


「月葉、立ち止まってみて。」


「え、はい。」


言われた通りその場に立ち止まって直立すると、先生が目の前に来て少し腰をかがめた。


チュッ、とリップ音が軽く鳴って、私は我に返った。


紺野先生がおでこに唇を落としたのだ。


「何してるんですか!?笑いごとじゃないですよ。」


怒り気味に言うと、先生は軽くいつものように受け流して再び横に立った。


「嬉しくなかったの?俺なりのお礼ね。」


そうとだけ言って職員室玄関に入っていった。


な、何なのあの人。


女の子なら誰でも俺にメロメロだ、とか思ってるのかな?


自意識過剰なたぶらかし教師め……。
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