苦手だったあなたへ
一応歌い終えて周りを見回すと、シンと静まり返って私に注目の目が集まっていた。


え、なんだろう、そ、そんなに下手だったの!?


何も言わないクラスメイトたちに不安を抱きつつも自分の席に腰を下ろした。


隣に座ってきた紺野先生がジュースを持ってきてくれた。


他の女子たちはみんなで合唱して楽しんでいるので、私の隣に座る紺野先生に今は注目していなかった。


「オレンジジュースでいい?」


「あぁ、ありがとうございます。」


ジュースのコップを受け取った。


「いやぁ、月葉めっちゃ歌うまかったじゃん。」


「えっ、ほんと……ですか?良かった……。」


他の人にどう聞こえたのかはわからないけど、先生だけでもそう思って貰えるとちょっと助かる。


女子たちが歌い終わると、ガヤガヤと紺野先生の周りに集まってきた。


騒がしいので、離れたところに座り直した。


ジュースをストローでちょっとずつ吸ってると、紺野先生の周りの女子たちの声が聞こえた。


「ねぇ、龍ちゃんはあの子と仲良いの?あの、中田さんだっけ?」


「歌がちょっと上手いからって、龍ちゃんに近づかないでほしいよね。」


クスクスと私をチラ見してくる女の子たちに腹が立ってきた。


だいたい、私の名前は中川なのに。
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