7.5日目のきみに会いたい

第18話 病室の彼女

病院の待合室には長時間待たせられている患者でたくさん溢れていた。
澄矢は、人混みの中をかき分けて入院病棟に行けばいいのだろうかと
エレベーター前でうろうろしていると、後ろから肩をたたかれた。
「小早川くん、ここで何してるの?」
 雫羽の担任の佐々木先生だった。
「えっと……」
「もしかして、水城雫羽さんのところに行こうとしてる?」
  勘の鋭い佐々木先生が、質問する。澄矢は、静かにうなずいた。
 乗ろうとしていたエレベーターが止まった。
「んじゃ、これに乗らないと……」
 佐々木先生は自動的に否定もせずに澄矢をエレベーターに誘導した。
 断れるんじゃないと思っていた澄矢は、拍子抜けをした。
「どんな顔してるのよ。ほら、乗りなさい」
 変な顔をしていたらしい。慌てて、ほかのエレベーターに乗る方に
 ぺこぺこお辞儀しながら、通り抜けた。知らない人の背中を凝視しながら、
 佐々木先生の横で何も言わずにおりる階数を待っていた。
「3階だから」
 佐々木先生は上を指さして、小声で話す。丸くて細い眼鏡が光りに反射していた。
 高校に通いはじめてから数か月しか経っていない。それにも関わらず、佐々木先生に顔と名前を覚えられている。不思議に思いながら、目でうなずいた。ポロンと音が鳴る。佐々木先生の後ろに着いていった。どこからか漂うのか、病室というのは
薬剤の匂いが鼻についた。佐々木先生がナースステーションに声を掛けに行った。
なんとなく、気配というか、空気というか、第6感というものだろうか。澄矢は、足が自然と動いていく。きっと右の病室なんだろう。調べもしない病室の前の名前を確認することなく、引き戸を開けた。
「小早川くん!」
 後ろから佐々木先生の声がした。その声さえも気にしないで、先生より先に引き戸を開け切った。
 病室には、雫羽の家族がベッドの周りを取り囲んでいた。口元につけていた人工呼吸器が枕もとの横に、 心電図の画面はスイッチは切れている。すすり泣く声が聞こえる。 現実を受け止めたくなかったが、雫羽の顔が真っ白く、安らかに目をつぶっている。 ただ静かに目をつぶっているだけだろうと思い込んでいた。
「小早川くん……」
  呆然と立ち尽くしていると、佐々木先生はそっと隣に来て、腕をつかんで後ろに連れていかれた。
「……先走りすぎよ」
「え?」
「ここは、違うから」
「どういうことですか?」
 パチンという高音が鳴り、一瞬にして、 異空間のトンネルに切り替わった。
 背景が全体的に純白に切り替わった。 カレンダーを見る暇もなく、病室で突然変わる。 今日は月曜日でもなかった気がした。虹色の輪っかに包まれて、場面が切り替わる。もう現実か夢か異次元空間なのかわからなくなってくる。 澄矢は、頭を抱えて、しゃがみこんだ。さっき見た景色は本当だったのか。もう命絶えた雫羽だったのではないだろうか。 現実かどうかさえもわからなくなる。
下を向くといつも行く河川敷の砂地があった。水切り用の石もころころと転がっている。今の心境は、石を探すの気力もない。精神的に落ちている気がした。
 川のせせらぎさえも今は落ち着いて聞けない。 小鳥のさえずりさえも、受け入れられない。もう、雫羽に会えないんじゃないかと感じて気が落ちている。砂を踏みしめる音が聞こえてこないかと想像したが、もう無理だろうなと思った。すると、目が両手でふさがれた。風がふわっと流されてきた。

 



  


 


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