パティシエになりたいので、結婚はいたしません!
アイザック様の大きな手が頰に触れる。そのまま顔を近付けられて、私の顔が真っ赤になった。思わず体が硬直してしまいそうになる。でも誰かと結婚するということは、パティシエになるという夢を諦めるということ。

「ごめんなさい!キスはできません!」

私はアイザック様に思い切り頭突きをしてしまった。アイザック様が「痛ッ!」と言いながら蹲ったけど、その横を全力で走って逃げる。

(何で毎日こんな攻防戦をしなくちゃならないの……!)

一般家庭に生まれていたら結婚しなくてもよかったのだろうか。いや、一般家庭だと砂糖も果物も高くて滅多に買えない。スイーツというものを誕生させることができなかった。

(中庭を通って行こう!)

中庭を真っ直ぐ進めば私の部屋への近道となる。手入れが行き届いた綺麗な中庭に足を踏み入れた時、「はい、捕まえた」と私の手は掴まれ、体は木に押し付けられる。

「そろそろいつもの鬼ごっこの時間が始まると思って、ここで待ち伏せしていてよかった」
< 11 / 15 >

この作品をシェア

pagetop