パティシエになりたいので、結婚はいたしません!
「まだお前のお嫁さんって決まったわけじゃないだろ!」

そう言うルーク様を無視してサミュエル様は駆け出す。抱き上げられている私は逃げ出すこともできず、ただ大人しくしているしかない。

「あの、サミュエル様……降ろしてください」

「やだ」

速攻で拒否されてしまい、私は黙ってどこに連れて行かれるんだろうかとぼんやり考える。隙を見て逃げ出さないとな〜……。

連れて行かれたのは、サミュエル様の部屋だった。バルコニーでようやく降ろしてもらえた。そのまま手の甲に口付けされる。

「アン、好きだ」

サミュエル様の瞳は真っ直ぐに私を見つめる。その頰は赤く染まっていた。私の胸がグッと締め付けられていく。

「俺と結婚してほしい」

そう言った後、彼は私の両頬を包む。そして唇を近付けてきた。どうしよう。体が動かない……!

「サミュエル〜!!」

大声と共にサミュエル様の頭に本が飛んでくる。私に気を取られていたサミュエル様の頭に思い切り当たった。痛そう……。
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