その手で強く、抱きしめて
「えっと、ちょっと待って」
「何だよ?」
「あの、私たち、昨日きちんと話し合ったよね? それで、直倫も分かってくれたんだよね?」
「は? 分かったって何が?」
「その……待ち伏せしたり、メッセージを送ってきたり、そういう執拗い行為はしない。もう関わらないって……」
「だからこうやって普通に来たんじゃん。綺咲が許してくれたからさ」
「いや、だからそれは、その事に対して分かってくれたならって意味で……こうやって家まで来る事もしないって含まれてるんだけど……」
「はあ? 訳分からねぇ。まあいいや、とにかく話なら中でしようぜ。な?」

 直倫は全く悪びれた様子が無いどころか、何も分かっていなかった。

 直倫にとって、私が許してくれたという部分だけが全てなようで細かい事は記憶から消去されてしまったのか、最早話が通じない。

(駄目だ……とにかく帰ってもらわなきゃ……部屋に入れたら絶対駄目……)

 やっぱり話して分かる人じゃ無かったと気付いた時には、もう遅かった。

「悪いけど、部屋には上げられない。帰って――」

 何としても部屋には入れたく無かったのに、

「うるせぇな、こっちはわざわざ来てやったんだぜ? まずはもてなすのが普通だろーが」
「やっ! ちょ、ちょっと!」

 半ば無理矢理部屋へと入り込んでしまった直倫。

「ねぇ、お願いだから帰って! 許可無く勝手に入るとか、犯罪だよね? 警察呼ぶよ?」

 流石にこれは無いと「警察を呼ぶ」という脅しを武器に帰ってもらおうと言葉を投げ掛けると、

「はあ? 何だよ警察って? ヨリ戻してんだから部屋の行き来なんて普通だろーが! ふざけんなよ!」
「きゃあ!?」

 怒りに触れてしまったらしく、気付けば直倫の拳が目の前に飛んできて、強い衝撃と共に頬を殴られていた。
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