その手で強く、抱きしめて
 どうして、さっき出逢ったばかりの私にここまで優しくしてくれるのだろう。

 こんな状況でそんな風に言われたら、断れない。

「……はい、分かりました」
「よし。それじゃあ住所を教えてくれ」

 私が「分かった」と返事をすると、優しく微笑んでくれた眞弘さん。

 彼のその笑顔に安心感を感じた私は、声を掛けてくれたのが彼で良かったと思いながら自宅アパートの住所を教えると、眞弘さんはスマホを素早く操作して部下の人にメッセージを送ったようだった。

 それから車に揺られる事数十分。

 辿り着いたのは街中から少し離れた住宅街の一角にある、周りより敷地面積の広い二階建ての大きな一軒家の前。

「ここが、眞弘さんのご自宅なんですか?」
「ああ。今は俺しか住んでないから気を遣う事も無い。ほら、降りるぞ」
「あ、は、はい」

 こんな大きな家に一人で住んでいるという眞弘さん。

 社長さんともなれば立派な家に住むのも普通の事だろうなと思いながら眞弘さんの後に続いて車を降りると、手入れされた綺麗なお庭に目を奪われつつも、置いていかれないよう玄関へと続くアプローチを小走りで歩いて行った。

 庭や外観からも分かるように、家の中も広くて素敵な空間が広がっていた。

 広い玄関に、立派な額縁に飾られた高価そうな絵。

 棚に飾られた調度品なども見るからに高価そうな物ばかりで少し緊張してしまう。

 そして、リビングへ案内された私は思わず声を上げてしまった。

「うわぁ、広くてお洒落なお部屋!」

 白と黒、そしてその間のグレートーンという色で組み合わせられているモノトーンインテリアのお洒落なリビングに、開放感のある広い空間。

 テレビやソファーも大きい筈なのに、部屋が広いからなのかそれを感じさせない事にも驚きだった。

「そんなに驚く事か? まあ適当に座っててくれ。俺は着替えて来る」
「あ、はい、分かりました。失礼します」

 リビングに魅入っていた私に少し苦笑いを浮かべた眞弘さんはソファーに座るよう促すと、着替えをすると言って階段を登って行った。
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