その手で強く、抱きしめて
 眞弘さんの申し出は有り難いし、良い人である事は間違い無いと思うのだけど、流石に今日出逢ったばかりの人の家に住むのは抵抗がある。

 だけど、アパートに住み続けるのも怖い。

 いっその事引っ越しが出来ればいいのだけど、金銭的にそこまでの余裕も無い。

 どうすればいいのか決め兼ねていると、話を聞いていたらしい梶原さんが、

「眞弘様、ご提案は素晴らしいものだと思いますが出会ったばかりの、しかも異性一人だけで住んでいる家に住み込むというのは些か抵抗があると思いますよ」

 私が言いにくい事を変わりに代弁してくれた。

「……そうか、悪いな、そこまで気が回らなかった。確かに、その通りだな。それならトヨさんにここへ来てもらえないか? 女性が居れば綺咲も少しは不安が取り除かれるだろう?」

 梶原さんの言葉を聞いて思い直した眞弘さんの口から「トヨさん」という名前が出て来たものの誰だか分からない私が首を傾げていると、

「トヨというのは私の祖母でございます。眞弘様が高校を卒業するまでは住み込みで神坂家の家政婦をしていたのですよ」

 私に分かるように説明をしてくれて、梶原さんのお祖母さんだという事が分かった。

「そうなんですね」
「それで良ければ祖母に話を通して、早ければ明日にでも、こちらで綺咲様同様住み込む事も可能ですよ」

 私のせいで梶原さんのお祖母さんまで巻き込む事になってしまう。

 それは申し訳無いけど、眞弘さんは遠慮するなと言ってくれた。

 勿論、ずっとという訳にはいかないけれど、せめて金銭的に余裕が出来て新たな住まいが確保出来るようになるまでだけお世話になろう。

「あの、それじゃあ暫くの間、お願いしてもいいでしょうか? 勿論、置いて頂いている間は私もお家の事を出来る限り手伝います。だから、よろしくお願いします」

 ソファーから立ち上がった私は眞弘さんと梶原さん二人に向かって頭を下げ、暫くお世話になる事をお願いした。
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