その手で強く、抱きしめて
2
 平日は引き篭もり、休日は眞弘さんや梶原さんが同行の元で買い物やら気晴らしに出掛ける事が出来ていた、ある日の事。

 藍華から電話が掛かって来た事で状況は一変する。

『綺咲、ヤバイよ』

 藍華には直倫の事を詳しく話していた事もあって眞弘さんに了承を得て仕事を辞めた経緯やあまり連絡が取れない事を話していたので、私の今置かれている状況を唯一解っているのだけど、そんな彼女が発した「ヤバイ」という言葉が何かとんでもない事が起きる予兆のように思えて怖くなった。

「どうしたの?」
『来たのよ、職場に……アンタの元カレが』
「え……」
『まあ、警備員居るから中には入れないから外に居たんだけど、出て来る人に聞いて回ってたのよ、『五條 綺咲はどこに居るんだ? 教えろ』って』
「嘘……」
『社長がアンタが辞めた理由は一身上の都合って言ってたし、万が一外部の人間に聞かれても急だったから分からないと答えなさいとしか言われてないから、綺咲の居場所がバレる事は無いと思うんだけど……』
「藍華は、大丈夫だった?」
「私? うん、私は平気よ。裏口から出たから聞かれてないし。もし聞かれても絶対答えないから安心して」
「うん、ありがとう……」

 藍華はそう言ってくれたのだけど、私は心配だった。

 直倫は私が藍華と仲が良かった事を知っているから、必ず藍華に接触する気なんじゃないかって。

「藍華……ごめんね、直倫は藍華と私が仲良かったの知ってるから、迷惑掛けちゃうかも……」
「何言ってんの。綺咲のせいじゃないよ? 私は大丈夫だから、綺咲は自分の安全を優先してね」
「うん、ありがとう」

 藍華との電話が終わった私はすぐに眞弘さんに事の次第を報告した。

「――そうか。俺の方でも監視を強化しておく。お前の友人の事も話しておくから安心しろ。とにかく、綺咲は何があっても接触しないよう気をつけるんだ。番号もどこから漏れるから分からないからな、知らない番号には絶対出るな。分かったな?」
「はい」

 不安は拭えないまま、その日から更に数日が過ぎた平日の昼下がり、再び藍華からの着信があった私はどこか嫌な予感がしつつも電話に出た。
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