その手で強く、抱きしめて
「どうして……今はお仕事中のはずじゃ……」
「俺の事はいい。それよりも、何故お前はこんなところに居るんだと聞いている」
「……それは、その……」

 眞弘さんが怒るのも当然だ。

 勝手に出るなと言われていたのに、何も言わずに家を出て来たのだから。

 だけど、藍華の事が心配だからこうするしか無かった。

「ごめんなさい、いけないと分かっていたんですけど、でも友達が私のせいで危険な目に遭っているかもしれなくて、それで――」

 説明すれば分かってもらえると思った私は藍華の事を話すと、

「馬鹿野郎! 俺は言ったはずだ、勝手に出るなと、何かあったら必ず言え、俺を頼れと――いい加減、自覚しろ。お前は本当に、危機感が足りなさ過ぎる」

 これまでに無い程怒りを露わにして怒鳴り声を上げた眞弘さん。

 そんな彼は私を一喝するも、最後には自分の胸に私の身体を引き寄せて、強い力で抱き締めてきた。

「……眞弘、さん……」
「自分のせいで友人を危険な目に遭わせているかもしれないと思う気持ちは分からなくは無い。だがな、奴の狙いは他でもないお前だ。一人で行こうとするなんて以ての外だと言っているんだ」

 私は馬鹿だ。

 眞弘さんがこんなにも心配してくれているのに、後先考えずに勝手に行動して、眞弘さんに迷惑ばかりか心配かけて。

 どうしようもない大馬鹿者だ。

「……ごめんなさい、だけど、私……」
「お前の友人は無事だ」
「え?」
「この前お前から話を聞いて、そちらの様子も定期的に見るようにしていた。そうしたら今日の昼間、スマートフォンを盗まれたと警察に届けを出したと知ってな、恐らく盗んだのはお前の元交際相手だろうと想像出来たから、急いで家に戻って来た。その途中で家を抜け出したお前を見つけたんだ」
「そう、だったんですね……藍華、無事なんだ、良かった……」

 眞弘さんの話を聞いて藍華の無事を知った私はホっと胸を撫で下ろすも、

「良くねぇだろうが。俺が見つけていなければお前は男の元へ行って、その後どうなっていたと思ってる? 騙されて部屋に入り込んで、殺されてた可能性だってあるんだぞ?」
「あ……」

 眞弘さんのその言葉で今一度冷静に考えてみた私は改めて事の重大さを知り、もしかしたら殺されていたかも、もう外へ出る事も出来なかったのかもと思うと恐怖から自然と身体が震えていた。
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