その手で強く、抱きしめて
「綺咲」
「直倫……何、してるの?」
「何って、お前を待ってたに決まってるだろ? きちんと話す時間を取ってやろうっていう俺の優しさだよ」

 何故か彼は私の職場のすぐ側のカフェで私の事を待っていた。

 正直、これには驚きよりも恐怖を感じた。

「話って……、私は別に話す事なんて何も無いけど?」
「何? 照れてんの? つーかお前からメッセージ送って来たくせにアカウント消すとか何なの? 俺の連絡先も相変わらずブロックしてるだろ? 不便だから解除しろよ」
「はあ? あのさ、ブロックするのは当然だよね? そもそも別れたのは直倫が浮気したせいだし、私よりも相手の子を選んだからじゃん。そんな終わり方なのにその後も連絡取りたいとか思う訳無いでしょ?」
「あー、はいはい、それは俺が悪かったよ。あの時はさ、俺もどうかしてたんだよなぁ。つーか、そもそもあの女に騙されたんだよ。本当、綺咲には悪かったと思ってる。これでも反省してるんだぜ?」
「何を今更。っていうかこの前も言ったと思うけど、私にヨリを戻すつもりは微塵も無いんですけど?」
「そういうのいいから。いい加減素直になれよ。そうやって可愛げないから他の女にふらついたんだぜ? 言っとくけど、俺が浮気したのはお前にも非があったんだよ」

 何を言っても聞く耳を持たないどころか、浮気したのは私にも原因があるとか言ってくるし、何故か私がヨリを戻したがっている(てい)で話は進められていく。
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