その手で強く、抱きしめて
「眞弘さん、少しいいでしょうか?」

 その夜、寝る支度を整えた私は眞弘さんの部屋を訪ねた。

「ああ、入ってくれて構わない」

 ノックをして声を掛けると、入っていいと言われた私は「失礼します」と言いながら部屋のドアを開いた。

 眞弘さんはベッドヘッドを背にして座り、小説を読んでいる最中だった。

「すみません、読書の邪魔をしてしまって……」
「構わない。それで、用件はなんだ?」
「その、今日の事を改めて謝ろうと……」

 読書の邪魔をしてしまった事を謝罪してその場で用件を口にすると、眞弘さんは小さく溜め息を吐いた後で、

「綺咲、少し話をしよう。こっちへ来てくれ」

 ベッド横にある机の椅子に座るよう手招きをして私を呼び寄せたので、「はい」と返事をして部屋へ入り、言われた通り椅子に座った。

「綺咲、今日の事はお前のせいじゃないと俺は話をしたはずだ」
「そんな事ありません、元はといえば全て私がいけないんです……私が眞弘さんを巻き込まなければこんな事にはならなかったのに……私のせいで……怪我までさせてしまって……」

 怪我の程度は大した事は無かったらしいけれど、少なからず傷痕も残るし、浅かったと言っても痛みが無い訳じゃないはずなのに、病院に向かう車の中でも常に気に掛けてくれたのは私の事。

 眞弘さんは私の為に色々な事をしてくれたのに、私は何一つ返せていないどころか迷惑をかけたり心配させてばかり。

 謝っても謝りきれないし、何をすれば恩を返せるのか、そればかり考えてしまう。

 何て言えばいいのか分からない私が口ごもり俯いていると、

「お前が無事ならそれでいい。アイツも捕まったし、綺咲に執着していた数々の証拠も提出したから、ひとまず安心していい。アイツに付け狙われている間はずっと気を張っていたんだ、暫くは何にも囚われずにゆっくり過ごすといいさ」

 優しく頭を撫でながら、そんな言葉を掛けてくれた。
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