その手で強く、抱きしめて
「……どうして」
「ん?」
「……どうして、眞弘さんはそんなにも優しいんですか?」
「俺は別に、優しくは無い」
「そんな事無いです! 優しいです……優し過ぎます。私なんかの為に、怪我までして……守ってくれて……」
「私なんか、なんて自分を卑下するような事を言うな。今回の事はお前には何の落ち度も無いんだから」
「……はい、すみません……」
「いや、分かればいいんだ。とにかく、お前に何も無くて本当に良かった。アイツは捕まったが、大した罪にはならない可能性の方が大きい。だから、出来る限り今後も不必要に一人で行動するのは控えてくれ」
「分かりました……だけど、眞弘さん」
「何だ?」
「その、私はずっとここに居る訳にはいかないと思います。その、私たちは家族でも、恋人でもありませんから……」

 直倫の事はひとまず片付いたとはいえ、今後どうなるかは分からない。

 だけど、これから先もずっと眞弘さんの家で生活していくのも違う気がした私はこれからの事を話してみると、

「それだがな、俺としては、やはり完全に危険が無くなるまではお前を手元に置いておきたいと思っている。短い間だが、共に過ごした。お前はもう家族のような存在だと思っているからな。心配なんだよ」

 完全に危険が無くなるまでは私を傍に置いておきたいと眞弘さんは言ったのだ。

 眞弘さんは家族のような存在だから心配だと言ってくれたけど、私としては、別の期待をしてしまう。

(……家族、か……。今はそれでも、この先それは変わったりするのかな?)

 いつも気に掛けて、危険が及んだ時は身体を張って助けてくれた眞弘さん。

 そんな彼に、私は少しずつ惹かれ始めていた。

 だから、傍に置いておきたいと言われた事は素直に嬉しい。

 私も、傍に居たいから。

 だけど、守ってもらうばかりじゃなくて、眞弘さんの助けになれたら、少しでも恩返しが出来たらと思っていた。
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