その手で強く、抱きしめて
(眞弘さんに、結婚を考えていた彼女がいた……どんな人なんだろう……どうして、駄目になっちゃったんだろう?)
あんなに優しい眞弘さんに彼女がいたというのは分かるけれど、結婚が駄目になるなんて、余程の事があったに違いない。
(相手の方から断ったのかな……それとも、眞弘さん?)
聞きたいけど本人に直接聞けない。
雅ちゃんや律都さんの話じゃ、恐らく職場の人は詳しく知らないだろう。
かと言って梶原さんに聞くわけにもいかない。
モヤモヤを抱えたまま帰宅した私は夕御飯の時にふと気付いた。
(そうだ、トヨさんなら何か知っているかも!)
キッチンで洗い物をしていたトヨさんの姿を目にした私は、眞弘さんがいない間に聞いてみようと考えた。
「あの、トヨさん」
「何ですか、綺咲さん」
「その、トヨさんは眞弘さんに結婚を考えていた交際相手がいたって話、知っていますか?」
私がそうトヨさんに問い掛けると、彼女の表情は一気に曇る。
「あの、トヨさん?」
「ああ、ごめんなさいねぇ、知ってはいるんだけど、私からはお話し出来ないんですよ。プライベートな事ですからねぇ」
「あ、そうですよね、すみません……あの、今の話は忘れてください」
彼女の言い分は最もで、本人の居ないところで過去を探ろうなんてやっぱり良くない事だ。
それに、トヨさんの表情が曇った事から何か余程の事情があったのだろう事も想像出来た。
でも逆に余計気になってしまったのも事実。
(……眞弘さんに直接聞くのが一番なんだろうけど、そんな話、教えて貰えないよね……)
結局この時は何の解決にも至らず、それから日にちだけが過ぎていったのだけど、眞弘さんの元交際相手の話を聞いてから約ひと月後、眞弘さんの元に、とある名家の娘さんとの縁談が舞い込んできた。
「折角のお話ですが、俺はそういうつもりは無いんです」
「そう言わずに、眞弘くんもいい年齢だし、そろそろ家庭を持つのも悪くないと思うんだよ、私は。相手の方はとても綺麗で上品で、家柄も申し分無い。良い話なんだよ。考えてみてはくれないか?」
ある休日、眞弘さんの元に親戚の方がやって来て、例の縁談を勧めていた。
私はトヨさんと共に家事をこなしながら時折聞こえてくる話に耳を傾けていたのだけど、どんなに勧められても眞弘さんは頑なに断り続けていた。
あんなに優しい眞弘さんに彼女がいたというのは分かるけれど、結婚が駄目になるなんて、余程の事があったに違いない。
(相手の方から断ったのかな……それとも、眞弘さん?)
聞きたいけど本人に直接聞けない。
雅ちゃんや律都さんの話じゃ、恐らく職場の人は詳しく知らないだろう。
かと言って梶原さんに聞くわけにもいかない。
モヤモヤを抱えたまま帰宅した私は夕御飯の時にふと気付いた。
(そうだ、トヨさんなら何か知っているかも!)
キッチンで洗い物をしていたトヨさんの姿を目にした私は、眞弘さんがいない間に聞いてみようと考えた。
「あの、トヨさん」
「何ですか、綺咲さん」
「その、トヨさんは眞弘さんに結婚を考えていた交際相手がいたって話、知っていますか?」
私がそうトヨさんに問い掛けると、彼女の表情は一気に曇る。
「あの、トヨさん?」
「ああ、ごめんなさいねぇ、知ってはいるんだけど、私からはお話し出来ないんですよ。プライベートな事ですからねぇ」
「あ、そうですよね、すみません……あの、今の話は忘れてください」
彼女の言い分は最もで、本人の居ないところで過去を探ろうなんてやっぱり良くない事だ。
それに、トヨさんの表情が曇った事から何か余程の事情があったのだろう事も想像出来た。
でも逆に余計気になってしまったのも事実。
(……眞弘さんに直接聞くのが一番なんだろうけど、そんな話、教えて貰えないよね……)
結局この時は何の解決にも至らず、それから日にちだけが過ぎていったのだけど、眞弘さんの元交際相手の話を聞いてから約ひと月後、眞弘さんの元に、とある名家の娘さんとの縁談が舞い込んできた。
「折角のお話ですが、俺はそういうつもりは無いんです」
「そう言わずに、眞弘くんもいい年齢だし、そろそろ家庭を持つのも悪くないと思うんだよ、私は。相手の方はとても綺麗で上品で、家柄も申し分無い。良い話なんだよ。考えてみてはくれないか?」
ある休日、眞弘さんの元に親戚の方がやって来て、例の縁談を勧めていた。
私はトヨさんと共に家事をこなしながら時折聞こえてくる話に耳を傾けていたのだけど、どんなに勧められても眞弘さんは頑なに断り続けていた。