その手で強く、抱きしめて
結局眞弘さんが縁談に首を縦に振る事はなく、相手の人が渋々諦める形で話は終わった。
眞弘さんが乗り気じゃ無いのは、ただ単に相手の女の人が好みじゃ無かっただけなのか、やっぱり、過去の恋人が忘れられないのか……。
後者だとすれば、別れは眞弘さんの意思では無くて、相手からだった事が想像出来る。
「綺咲」
「は、はい?」
「悪いが、俺の部屋から机の上に乗っている封筒を持って来てくれないか?」
「封筒ですね、分かりました!」
リビングでノートパソコンを広げて仕事をしていた眞弘さん。
何やら誰かと電話をしながらで手が離せず部屋に戻れないのか、電話口から少し顔を離すと私に部屋から必要な物を取って来て欲しいとお願いして来た。
彼が居ない間に部屋に入る事が無い私は少し緊張しつつも階段を上がって彼の部屋へ足を踏み入れた。
机の上には眞弘さんが言った通り封筒が置いてあった。
「これだよね」
他に見当たらない事からその封筒を手にして部屋から出ようとすると、机のすぐ横にあるチェストの上に飾ってあった写真立てが目に入った。
「……これ、もしかして……」
その写真には今よりも少し若い頃の眞弘さんと一人の女性が写っていた。
恐らく、この女性こそが眞弘さんの過去の恋人だろうと確信した。
(眞弘さんが忘れられない程の女の人……)
写真に写る女性は小柄で綺麗でモデルさんみたいに美人な人。
身体を寄せて写る写真の二人はとにかく仲が良さそうで、何故別れてしまったのかが分からない程だった。
「あ、早く戻らなきゃ!」
ふと、封筒を取りに来た事を思い出した私は急いで戻らなきゃと慌てて部屋を後にした。
「すみません、お待たせしました!」
「ああ、悪かったな」
リビングに戻ると電話が終わっていたようで、再びノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいる眞弘さんの姿があった。
「いえ、その……すみません……」
「ん? 何故謝る?」
封筒を取ってくるのに少し時間が掛かってしまった事と、写真を勝手に見てしまった事を謝ったのだけど、眞弘さんからすれば何故謝るのかがいまいちよく分かっていないようで不思議そうな表情を浮かべていた。
「いえ、その……取ってくるのに少し時間が掛かってしまったので……」
流石に写真の事を言い出せなかった私は持って来るのに時間が掛かって申し訳無く思った事を告げると、
「いちいち気にしなくていい。取って来てくれてありがとう」
気にしていないと言いながら笑顔を向けてくれた眞弘さんを前に、ますます罪悪感が芽生えてしまった。
眞弘さんが乗り気じゃ無いのは、ただ単に相手の女の人が好みじゃ無かっただけなのか、やっぱり、過去の恋人が忘れられないのか……。
後者だとすれば、別れは眞弘さんの意思では無くて、相手からだった事が想像出来る。
「綺咲」
「は、はい?」
「悪いが、俺の部屋から机の上に乗っている封筒を持って来てくれないか?」
「封筒ですね、分かりました!」
リビングでノートパソコンを広げて仕事をしていた眞弘さん。
何やら誰かと電話をしながらで手が離せず部屋に戻れないのか、電話口から少し顔を離すと私に部屋から必要な物を取って来て欲しいとお願いして来た。
彼が居ない間に部屋に入る事が無い私は少し緊張しつつも階段を上がって彼の部屋へ足を踏み入れた。
机の上には眞弘さんが言った通り封筒が置いてあった。
「これだよね」
他に見当たらない事からその封筒を手にして部屋から出ようとすると、机のすぐ横にあるチェストの上に飾ってあった写真立てが目に入った。
「……これ、もしかして……」
その写真には今よりも少し若い頃の眞弘さんと一人の女性が写っていた。
恐らく、この女性こそが眞弘さんの過去の恋人だろうと確信した。
(眞弘さんが忘れられない程の女の人……)
写真に写る女性は小柄で綺麗でモデルさんみたいに美人な人。
身体を寄せて写る写真の二人はとにかく仲が良さそうで、何故別れてしまったのかが分からない程だった。
「あ、早く戻らなきゃ!」
ふと、封筒を取りに来た事を思い出した私は急いで戻らなきゃと慌てて部屋を後にした。
「すみません、お待たせしました!」
「ああ、悪かったな」
リビングに戻ると電話が終わっていたようで、再びノートパソコンに向かって何かを打ち込んでいる眞弘さんの姿があった。
「いえ、その……すみません……」
「ん? 何故謝る?」
封筒を取ってくるのに少し時間が掛かってしまった事と、写真を勝手に見てしまった事を謝ったのだけど、眞弘さんからすれば何故謝るのかがいまいちよく分かっていないようで不思議そうな表情を浮かべていた。
「いえ、その……取ってくるのに少し時間が掛かってしまったので……」
流石に写真の事を言い出せなかった私は持って来るのに時間が掛かって申し訳無く思った事を告げると、
「いちいち気にしなくていい。取って来てくれてありがとう」
気にしていないと言いながら笑顔を向けてくれた眞弘さんを前に、ますます罪悪感が芽生えてしまった。