その手で強く、抱きしめて
(何なの? コイツ、頭おかしいんじゃない?)

 明らかに話の通じない直倫にどうしたものかと途方に暮れる。

「……とにかく、私は貴方とヨリを戻すつもりは無いから! こういう風に待ち伏せも迷惑だから、二度としないで!」
「あ、おいっ! 綺咲!」

 話が通じない以上何度話しても時間の無駄だと思った私は周りにも聞こえるように大きな声を上げてハッキリ言い放つと、流石の直倫も言い返せなかったのか私がその場から立ち去るのを追い掛けては来なかった。

 それから特に連絡も無かった事、友達に聞いてもSNSも音沙汰が無くなり何も言わなくなった事から分かってくれたのだと安堵する。

(良かった……これでひと安心だね)

 平穏な日常が戻り、気付けば直倫との再会から約ひと月が経っていた、その頃――再び悪夢は始まった。

「……何、これ……」

 とある休日の夜、朝から出掛けて帰って来た私がアパートの集合受け箱から郵便物を取り出していると、ダイレクトメールやチラシに混じって一通の封筒が入っている事に気づく。

 白い封筒には名前しか書いておらず、住所も書いていなければ切手も貼っていない。

 要するに直接ポストに入れたという事を意味しているその手紙。

 気味の悪いその封筒を開けるか迷ったものの、捨てる訳にもいかないのでひとまずその場で封を切ってみると中には便箋が一枚入っていて、そこには直倫の連絡先と、《いい加減連絡取れるようにしろよ。優しいから俺の連絡先を書いておいてやる。これを登録して連絡取れるようにしなきゃ、今度は直接会いに行くからな》という文章が記されていた。
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