その手で強く、抱きしめて
「どうした? 何か困り事でもあったのか?」

 眞弘さんはいつも通り……にも見えるのだけど、私の気のせいで無ければ、少し……ほんの少しだけ元気が無いように感じた。

「いえ、その……そういう訳では無くて……朝から眞弘さんの姿が見えなくて、梶原さんに聞いたら用事があって出掛けたと聞いたものですから……それがどうしても、気になってしまって……」
「……そうか。それはすまない。まあ、仕事を休んでまで出掛けているとあっては、気になるかもしれないな」
「私の方こそすみません! 眞弘さんには眞弘さんの事情もお有りでしょうし、私なんかが詮索するなんて烏滸がましいとは思ったんですけど……いつも傍に居てくださるから、何だか少し、不安になってしまって……」

 気になっていたのが一番の理由だけど、眞弘さんが朝から居ないなんてそうある訳じゃないから不安に思ったのも事実。

 そんな私の話を聞いた眞弘さんは、

「綺咲、こっちに来てくれないか? 良ければ話を聞いてもらいたい」

 そう言いながら自身の座るベッドの横を指差した。

「私が聞いても大丈夫なお話なら、是非聞かせてください。失礼します」

 今日の事を話してくれるのか、それとも、元彼女さんの話をしてくれるのかは分からないけれど、心なしか悲しげな表情を浮かべる眞弘さんに少しでも寄り添えたらと思った私は彼の側まで歩いて行くと、言われた通り彼の横に腰を下ろした。

「……今日はな、ある人の命日で、墓参りに行っていたんだ」

 すると、眞弘さんは今日が何の日なのかをポツリポツリと話し始めた。

「もう、五年も前になるのに、この日が来るのは慣れなくてな……あの日の事を思うと、どうしても、平常心じゃいられなくなる。仕事なんてとても手につきそうに無いから、毎年この日だけは休んでいるんだ。一人で、色々と気持ちの整理をつけたくてな……」

 眞弘さんの話によると、今日はどなたか大切な方の命日で、この日だけはどうしても平常心じゃいられないのだと言う。

 この話を聞いた私の脳裏に真っ先に浮かんだのは、この前見た写真の女性だった。
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