その手で強く、抱きしめて
 その後もひたすら申し訳無さそうな表情のままの直倫。

 反省してくれたならいいよと私が口にすると、ホッとしたように笑顔を浮かべた。

 直倫のその笑顔が好きだった。

 私たちの出逢いは合コンだったし、初めは軽い印象だったけど、直倫の笑顔に惚れたんだ。

 格好良くて優しくて、ムードメーカー的存在の直倫は誰にでも優しくて、女友達もいたし、職場での飲み会も頻繁にあった。

 不安はあったけど、それでも私の事が一番だって言ってくれてたし、私も仕事が忙しくて会えない日も多くなった。

 そして、些細な事で喧嘩になり、更には直倫の浮気が発覚。

 最終的に私が振られて終わった恋。

 再会してからは振り回されてばかりで辛かったけど、それもようやく終わるのだと思ったら全てを許せた。


「それじゃあね」
「ああ」

 カフェを出た私たちはそれぞれ別々の方向へ歩いて行った。

 ふとスマホに目をやると、藍華からメッセージが届いている事に気付く。

 どうやら心配して気に掛けてくれたみたい。

《心配してくれてありがとう。きちんと反省してくれたみたいで、何事も無く終わったよ》

 そう返信をした私は電車に乗って帰路に着いた。

 完全に直倫から解放された私の心は晴れやかで、久しぶりにぐっすり眠る事も出来た。

 そして、翌日の日曜日は朝からテンションも上がりサボり気味だった家事を進めていたのだけど、お昼間際に鳴った来客を知らせるインターホンがこれからの私の運命を大きく変える事になった。
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