虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
1-11 同情?
ジュリアン侯爵を連れて部屋を出ると自分の勉強部屋を案内する為に前に立って廊下を歩き始めた。
私の勉強部屋は1Fのほとんど日の当たらない北向きの部屋である。夏は涼しくて良いものの、冬場ともなると寒くてたまらない……そんな部屋だ。
「こちらでございます、ジュリアン様」
部屋のドアを開けて私はジュリアン侯爵を中へと招き入れた。ジュリアン侯爵は部屋に入り、辺りを見渡すした。
「ライザ、ここは本当に貴女の部屋なのですか?」
その質問に答えられなかった。この部屋は私の部屋に違いないが、あくまで勉強するための部屋であり、睡眠をとる為の部屋では無い。部屋の中にあるのは机に椅子、そして部屋の中央に置かれた大きな楕円形のテーブルに背もたれ付きの椅子が2脚あるだけで、ベッドは無い。
「ライザ、黙っていては分かりません。正直に答えて下さい」
ジュリアン侯爵に追及され、ついに私は正直に言う事にした。本当の事を告げた事が母にバレたら、どんな折檻を受けるか分からないが、ジュリアン侯爵に内緒にして貰うようにお願いすれば大丈夫だろう。
「あ、あの……実はこの部屋は正確に言えば私の勉強部屋なのです。寝る部屋は別にありますが、とても粗末なものでジュリアン様にお見せできるような部屋ではありません」
恥ずかしくて顔を赤らめながら最後の方は消え入るような声になってしまった。
「……何ですって? 貴女の寝る部屋はここよりも粗末なのですか?」
「は、はい……」
ああ…きっとジュリアン侯爵は呆れているだろう。ひょっとすると私はこの屋敷の私生児だと思われているかもしれない。
「何て事だ……」
ジュリアン侯爵は片手で自分の顔を覆うと、ため息をついた。
その反応はもしかすると私に同情してくれているのだろうか?
「ジュリアン様……」
声を掛けると、ジュリアン侯爵は覆っていた手を外してじっと私を見つめた。
「カサンドラと言う女性が部屋に入ってきた時から違和感を覚えていたのです。ライザ。失礼を承知で言いますが、貴女の今着ていられるドレスはどう見てもかなりの年代物に見えます。しかしカサンドラが着ていたドレスは今町で話題のデザイナ―『レディ・アート』のドレスでしたよね? 現在、若い貴族令嬢たちの間では大人気で品切れが続出しているそうです。欲しくても手に入らない幻の逸品とさえ言われています。そしてあのカサンドラが着ていたドレスは最新作だった……」
私はジュリアン侯爵の話に驚いてしまった。まさかこれほどまでに彼が女性向けブランド『レディ・アート』のドレスについて詳しいとは思いもしなかった。
ジュリアン侯爵の話はまだ続く。
「それなのにライザ……貴女はこんな日当たりの悪い部屋を与えられ、ドレスも買って貰えない生活を強いられていたのですね?」
ジュリアン侯爵の目にはすっかり私に対する同情が宿っていた。
「何故、貴女はそのような目に遭っているのに甘んじて受け入れているのですか?」
「べ、別に甘んじて受け入れているわけではありません。生まれた時から今の環境だったのですから……」
「ですが、カサンドラと言う女性は貴女の従妹ですよね? 何故彼女は実の家族でもないのに、あのように優遇されているのですか?」
「分かりません……。尋ねた事がありませんので……」
「ライザ、これからは私が貴女を援助致します。ですが……ただ援助されるだけでは嫌でしょうから、こうしましょう。私は貴女の描くイラストが大変気に入りました。なので貴女の描いたイラストを高値で買い取らせて下さい。そうすれば、少しは今の生活をより良いものに改善する事が出来ますよね?」
ジュリアン侯爵の提案は私にとってまるで夢のような話ではあったが……。
「あの、本当にお言葉に甘えてもよろしいのでしょうか?」
恐る恐る尋ねた。
「ええ、勿論ですとも。それに少し私の方で調べたい事も出来ましたし」
「調べたい事……?」
「ええ。とても大事な事です」
ジュリアン侯爵は意味深な笑みを浮かべた――
私の勉強部屋は1Fのほとんど日の当たらない北向きの部屋である。夏は涼しくて良いものの、冬場ともなると寒くてたまらない……そんな部屋だ。
「こちらでございます、ジュリアン様」
部屋のドアを開けて私はジュリアン侯爵を中へと招き入れた。ジュリアン侯爵は部屋に入り、辺りを見渡すした。
「ライザ、ここは本当に貴女の部屋なのですか?」
その質問に答えられなかった。この部屋は私の部屋に違いないが、あくまで勉強するための部屋であり、睡眠をとる為の部屋では無い。部屋の中にあるのは机に椅子、そして部屋の中央に置かれた大きな楕円形のテーブルに背もたれ付きの椅子が2脚あるだけで、ベッドは無い。
「ライザ、黙っていては分かりません。正直に答えて下さい」
ジュリアン侯爵に追及され、ついに私は正直に言う事にした。本当の事を告げた事が母にバレたら、どんな折檻を受けるか分からないが、ジュリアン侯爵に内緒にして貰うようにお願いすれば大丈夫だろう。
「あ、あの……実はこの部屋は正確に言えば私の勉強部屋なのです。寝る部屋は別にありますが、とても粗末なものでジュリアン様にお見せできるような部屋ではありません」
恥ずかしくて顔を赤らめながら最後の方は消え入るような声になってしまった。
「……何ですって? 貴女の寝る部屋はここよりも粗末なのですか?」
「は、はい……」
ああ…きっとジュリアン侯爵は呆れているだろう。ひょっとすると私はこの屋敷の私生児だと思われているかもしれない。
「何て事だ……」
ジュリアン侯爵は片手で自分の顔を覆うと、ため息をついた。
その反応はもしかすると私に同情してくれているのだろうか?
「ジュリアン様……」
声を掛けると、ジュリアン侯爵は覆っていた手を外してじっと私を見つめた。
「カサンドラと言う女性が部屋に入ってきた時から違和感を覚えていたのです。ライザ。失礼を承知で言いますが、貴女の今着ていられるドレスはどう見てもかなりの年代物に見えます。しかしカサンドラが着ていたドレスは今町で話題のデザイナ―『レディ・アート』のドレスでしたよね? 現在、若い貴族令嬢たちの間では大人気で品切れが続出しているそうです。欲しくても手に入らない幻の逸品とさえ言われています。そしてあのカサンドラが着ていたドレスは最新作だった……」
私はジュリアン侯爵の話に驚いてしまった。まさかこれほどまでに彼が女性向けブランド『レディ・アート』のドレスについて詳しいとは思いもしなかった。
ジュリアン侯爵の話はまだ続く。
「それなのにライザ……貴女はこんな日当たりの悪い部屋を与えられ、ドレスも買って貰えない生活を強いられていたのですね?」
ジュリアン侯爵の目にはすっかり私に対する同情が宿っていた。
「何故、貴女はそのような目に遭っているのに甘んじて受け入れているのですか?」
「べ、別に甘んじて受け入れているわけではありません。生まれた時から今の環境だったのですから……」
「ですが、カサンドラと言う女性は貴女の従妹ですよね? 何故彼女は実の家族でもないのに、あのように優遇されているのですか?」
「分かりません……。尋ねた事がありませんので……」
「ライザ、これからは私が貴女を援助致します。ですが……ただ援助されるだけでは嫌でしょうから、こうしましょう。私は貴女の描くイラストが大変気に入りました。なので貴女の描いたイラストを高値で買い取らせて下さい。そうすれば、少しは今の生活をより良いものに改善する事が出来ますよね?」
ジュリアン侯爵の提案は私にとってまるで夢のような話ではあったが……。
「あの、本当にお言葉に甘えてもよろしいのでしょうか?」
恐る恐る尋ねた。
「ええ、勿論ですとも。それに少し私の方で調べたい事も出来ましたし」
「調べたい事……?」
「ええ。とても大事な事です」
ジュリアン侯爵は意味深な笑みを浮かべた――