虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む

2-4 次の計画

 街へやって来た私は昨日と同じパン屋へ向かった。

――15分後

焼き立てのパンが入った紙袋を手に笑顔で店から出た。
今日私が購入したパンはクリームパンに、卵がたっぷり入ったサンドイッチ、そしてプレーンベーグルである。飲み物もまた昨日と同じお店で購入。但し、今日私が買ったのは搾りたてのオレンジジュースだ。

「今日も昨日と同じ場所で食べようかしら」

左手にパンの入った紙袋、右手にジュースを持った私は広場の奥にある小さな公園のベンチに座ると早速パンを頬張った。

「う〜ん……本当に美味しいっ! 我が家で食べる食事よりもずっと美味しいわっ!」

今朝は色々嫌な事もあったけど、その分やり返してやった高揚感で私はすっきりしていた。
その御蔭で買ってきたパンを美味しく食べる事も出来た。

ひょっとすると今回の騒ぎで、もう二度とあの場所で私の食事が出されることは無いかもしれないけれどもそれでも構わない。
父も母もカサンドラも豪華な食事を食べる事が出来るのに、私だけ粗末な食事を同じテーブルで食べなければならない。
あんな惨めな思いはもうこりごりだ。
それなら町へ出て、安くて美味しい食事を買って外で食べる方が数倍マシだと言う事に気付いてしまった。それも全てジュリアン侯爵が私にお金をくれたからだ。

だから私はその恩義に報いなければならない。

最後のパンを口に入れ、ジュースを飲み干すと、風景画を描くのにふさわしい場所を求めて探し回った。


 本来なら今日は歴史を教える若い男性家庭教師が来る日だが、あんな小さな子供の絵本のように薄っぺらな本しか持ってこないような教師に教わる授業等必要ない。
何故なら私はカサンドラの歴史の教科書の内容を全て網羅しているからだ。

母のいう事だってもう聞かない。
今まで理不尽な目に遭わされている実の娘をかばう事も無く、ただひたすらに父の愛情ばかりを追い求めるような母はもう必要無い。それに最近の使用人たちの噂によると、今日家庭教師として訪れる男性と母は不倫の関係にあると言う話が出ている。
もしそれが真実なら私がいなければ2人はいつも以上に逢瀬の時間を持てるはず……。

「そうだわ」

そこで私はある考えに至った。

「そう言えば歴史の教師が来る時間は午後1時。私がいなければ当然母はあの家庭教師と話をする為に勉強部屋へやって来るはずだわ……」

ひょっとすると私がいない事で2人の浮気現場を見る事が出来るかもしれない。そして母の弱点を掴み、もっと私にお金を融通してもらうように頼むのだ。
なにせ母はその家庭教師に多額のお金を貢いでいるという噂も出ているのだから。

 そうと決まれば、私の今日の予定は決まった。今の時刻は10時半。これからスケッチの場所を探し、14時半までに風景画を描き終える。その後、屋敷へ戻って勉強部屋が見える中庭に隠れて家庭教師が現れるのを待っていよう。そして2人の浮気現場を押さえて……。

「こうしてはいられないわっ!」

綺麗な風景画を探そうと立ち上がりかけ……目の前に噴水広場が見える事に気付いた。

「そうよ……。この風景も素敵な場所じゃない」

よし、決めた。今日はここで風景画を描こう。布袋からスケッチブックと色鉛筆を取り出し、一心不乱にスケッチを始めた。


私は余程集中してスケッチをしていたのだろう。絵が完成したときには既に時刻は14時50分になっていた。

「大変っ! もうこんな時間だわ。急がなくちゃっ!」

急いでスケッチブックをしまうと、私は小走りで屋敷へと向かった。どうか、母が私の家庭教師と浮気の真っ最中でありますようにと祈りながら――
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