虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
1-4 意地悪なメイド達
「お母様。出掛けて来て宜しいでしょうか?」
紅茶を飲み終えると私は母に尋ねた。
「出掛けるって一体何処に? お金だってないくせに」
紅茶を飲みながら本を読んでいる母はこちらを見ようともしない。私は生まれて18年間、お小遣いを貰った事がない。どうしても欲しいものがある時は父か母に買いたい物を伝え、何の為に、またどれ位の費用がかかるのかを説明しなければならない。ただし、父の場合はまともに取り合ってくれないので文書にまとめ、執事に書類を頼む必要があるのだが私の希望が叶った試しは今迄一度もない。本当に父に文書を手渡しているのか怪しいものである。なので私が今迄貰って来たお小遣いは全て母が父から貰っているお金を分けてもらっている様な状態だ。これだから母にも頭が上がらない。
だが、今回は違う。
「いいえ、お金は必要ありません。少し見学に行くだけですから」
「見学? 一体何を見学に?」
ここでは母はようやく顔をあげた。
「はい、今流行のドレスはどのようなデザインなのか調査しに行くのです」
そして私は木綿で作ったお手製のバッグにスケッチブック、そしてカサンドラのおさがりの色鉛筆を入れた。
「そう、それで町の洋品店へ行ってドレスを見に行って来るのね? 行くのは構わないけど、昼までに戻って来なければ昼食は抜きになるわよ。全く……あの娘が屋敷にやって来てからは、最近お前と同様、私までメイドに馬鹿にされてきているように感じるわ。私はこんなに才女なのに、それを活かす事も出来ないなんて……」
母は悔しそうに爪を噛んでいる。そんなに自分が優秀だと思うなら、あんな父とはさっさと別れるべきなのに。
「では、遅くならないように急いで行ってきます」
私は帽子を被ると、自室を後にした。
廊下を歩いていると数人の使用人達にすれ違ったが、彼等は一度も私に挨拶をした事がない。それどころかこれ見よがしにわざと私を見ながら囁き合っているのだ。中には嘲笑している者もいる。それらを無視して廊下の角を曲がろうとした時、突然ほうきの柄が飛び出してきた。
「!」
咄嗟の事で、よけきれず足を引っかけた私はそのまま無様に床に倒れてしまった。
「い……いった……い……」
床に這いつくばったまま、見上げるとそこにはカサンドラ付きの3人のメイドがクスクス笑いながら立っていた。
「……」
無言で立ち上がり、スカートについた埃を払うと彼女達を睨みつけた。
「何をするの?」
「ほうきで廊下の掃除をしていただけですよ?」
「ええ。そう」
「そこへお嬢様が通りかかったんですよね?」
3人は互いに顔を見渡しながら意地悪い笑みを浮かべている。
「私、今このほうきで転んだのよ?」
「「「……」」」
「何か言う事は無いのかしら?」
「ありません。勝手に転んだのはお嬢様ですから」
中でも一番私に嫌がらせをしてくる黒髪のメイドがニヤリと笑う。
「……っ!」
恐らく、彼女達は私に悪い事をしたとは思ってもいないのだろう。屋敷の主から冷たい仕打ちを受ければ、使用人達もその相手を侮辱する……それが貴族社会と言う物なのかもしれない。
しかし、それはあくまで使用人達の間の世界の話では無いだろうか? 私は仮にもこの伯爵家の一人娘、なのに何故このような扱いを受けなければならないのだろう。
だが、こんな所で無駄な時間を取る訳にはいかない。これから私は貴族令嬢達の間で高い人気のあるデザイナーの店へ行き、リサーチしてこなければならないからだ。
「もう……いいわ」
私は立ち上がるとその場を後にした。
背後にメイド達の冷たい笑い声を聞きながら――
紅茶を飲み終えると私は母に尋ねた。
「出掛けるって一体何処に? お金だってないくせに」
紅茶を飲みながら本を読んでいる母はこちらを見ようともしない。私は生まれて18年間、お小遣いを貰った事がない。どうしても欲しいものがある時は父か母に買いたい物を伝え、何の為に、またどれ位の費用がかかるのかを説明しなければならない。ただし、父の場合はまともに取り合ってくれないので文書にまとめ、執事に書類を頼む必要があるのだが私の希望が叶った試しは今迄一度もない。本当に父に文書を手渡しているのか怪しいものである。なので私が今迄貰って来たお小遣いは全て母が父から貰っているお金を分けてもらっている様な状態だ。これだから母にも頭が上がらない。
だが、今回は違う。
「いいえ、お金は必要ありません。少し見学に行くだけですから」
「見学? 一体何を見学に?」
ここでは母はようやく顔をあげた。
「はい、今流行のドレスはどのようなデザインなのか調査しに行くのです」
そして私は木綿で作ったお手製のバッグにスケッチブック、そしてカサンドラのおさがりの色鉛筆を入れた。
「そう、それで町の洋品店へ行ってドレスを見に行って来るのね? 行くのは構わないけど、昼までに戻って来なければ昼食は抜きになるわよ。全く……あの娘が屋敷にやって来てからは、最近お前と同様、私までメイドに馬鹿にされてきているように感じるわ。私はこんなに才女なのに、それを活かす事も出来ないなんて……」
母は悔しそうに爪を噛んでいる。そんなに自分が優秀だと思うなら、あんな父とはさっさと別れるべきなのに。
「では、遅くならないように急いで行ってきます」
私は帽子を被ると、自室を後にした。
廊下を歩いていると数人の使用人達にすれ違ったが、彼等は一度も私に挨拶をした事がない。それどころかこれ見よがしにわざと私を見ながら囁き合っているのだ。中には嘲笑している者もいる。それらを無視して廊下の角を曲がろうとした時、突然ほうきの柄が飛び出してきた。
「!」
咄嗟の事で、よけきれず足を引っかけた私はそのまま無様に床に倒れてしまった。
「い……いった……い……」
床に這いつくばったまま、見上げるとそこにはカサンドラ付きの3人のメイドがクスクス笑いながら立っていた。
「……」
無言で立ち上がり、スカートについた埃を払うと彼女達を睨みつけた。
「何をするの?」
「ほうきで廊下の掃除をしていただけですよ?」
「ええ。そう」
「そこへお嬢様が通りかかったんですよね?」
3人は互いに顔を見渡しながら意地悪い笑みを浮かべている。
「私、今このほうきで転んだのよ?」
「「「……」」」
「何か言う事は無いのかしら?」
「ありません。勝手に転んだのはお嬢様ですから」
中でも一番私に嫌がらせをしてくる黒髪のメイドがニヤリと笑う。
「……っ!」
恐らく、彼女達は私に悪い事をしたとは思ってもいないのだろう。屋敷の主から冷たい仕打ちを受ければ、使用人達もその相手を侮辱する……それが貴族社会と言う物なのかもしれない。
しかし、それはあくまで使用人達の間の世界の話では無いだろうか? 私は仮にもこの伯爵家の一人娘、なのに何故このような扱いを受けなければならないのだろう。
だが、こんな所で無駄な時間を取る訳にはいかない。これから私は貴族令嬢達の間で高い人気のあるデザイナーの店へ行き、リサーチしてこなければならないからだ。
「もう……いいわ」
私は立ち上がるとその場を後にした。
背後にメイド達の冷たい笑い声を聞きながら――