虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
4-1 モンタナ家からの使者
ジュリアン侯爵の屋敷に住むようになってから早いものでもうすぐ一か月になろうとしている。
今の私の生活はとても快適だった。毎朝侯爵と一緒に食事をとる。
朝8時にジュリアン侯爵は馬車に乗って仕事に出かける。
そこから先は私の時間だ。与えられた部屋で今まで以上に勉学に励んだ。
私の目標は決まった。ゆくゆくはジュリアン侯爵の右腕として役立てるように彼の秘書を目指すのだ。その為にはもっともっと勉強しなくてはならない。なので午前中は丸々勉強の時間にあてた。
そして昼食は侯爵家で働く使用人の人達と同じ賄料理を食べる。しかし、賄い料理といえど食事内容は充実している。彼らは最初客人である私と同じ厨房で、しかも賄い料理を食べさせるなどとんでもないと言ったのだが、そこは私のかつてない希望で、彼らは私の言う通りにしてくれた。けれどもいつしか私は彼らととても親しくなり、毎日の昼食がとても楽しい時間となっていた。
「ライザ様、今日も午後から写生をされるのですか?」
皆で食事を取りながら一番年若いメイドが声をかけてきた。
「そうなの。ジュリアン侯爵家の邸宅はとにかく広くてお庭も美しいから写生のし甲斐があるわ」
「そういえば聞きましたよ。ライザ様の描いた風景画は今、画廊で徐々に人気が上がってきて、先週は5枚も売れたそうですね。しかも1枚金貨2枚で売れるなんてすごいですっ!」
年若いフットマンが瞳をキラキラさせる。
「ええ。少しは自分でも稼いでおかないとね。いつまでもジュリアン侯爵のお世話になっているわけにもいかないし。自分で生計を立てられるうになったらここを出て行くつもりよ。安定した生活を送れるようになったら徐々にジュリアン侯爵にお金を返していかないとならないしね」
すると何故か私の言葉にその場にいた全員が氷ついたようになる。
「え? 皆さん? どうしたの?」
しかし、全員が何故か水を打ったように静まり返っている。何か妙な事を言ってしまっただろうか?
しかし、やがて一人のフットマンが口を開いた。
「ライザ様……まさかそのように考えておられたのですか?」
「ひょっとして何も侯爵様からお話を伺っていないのですか?」
「全く……侯爵様は仕事の虫だから!」
「ほんとうに。これだから28歳にもなっていまだに独身なのですよ」
等々、いつの間にかジュリアン侯爵の陰口にへと変わっていた。
…それにして知らなかった。ジュリアン侯爵は28歳。私よりも10歳年上だったのか。20代だとは思っていたけれども。だけどその年まで独身で、みたところ恋人もいないようである。
「もったいないわ……」
ポツリと思わず呟いた――
****
昼食後、スケッチブックに水彩色鉛筆のセットを持って庭園の写生へ行こうとした時である。
――コンコン
自室のドアがノックされ、メイドが声をかけてきた。
「ライザ様。モンタナ家より使者の方が参りました。ぜひともライザ様にお目通りしたいとのことです」
「え? モンタナ家から?」
急いでドアを開けると、そこにはメイドが立っていた。
「あ。ライザ様……いかが致しましょうか?」
「……今行きます」
私がモンタナ家を出てからもうすぐ一か月。ずっとあの屋敷の様子が気になっていた。父は、母は……そしてカサンドラはどうしているのだろう?
ここに使者がやってきたという事はきっと何かがあったという事なのだろう。
私は足早にエントランスへと向かった――
今の私の生活はとても快適だった。毎朝侯爵と一緒に食事をとる。
朝8時にジュリアン侯爵は馬車に乗って仕事に出かける。
そこから先は私の時間だ。与えられた部屋で今まで以上に勉学に励んだ。
私の目標は決まった。ゆくゆくはジュリアン侯爵の右腕として役立てるように彼の秘書を目指すのだ。その為にはもっともっと勉強しなくてはならない。なので午前中は丸々勉強の時間にあてた。
そして昼食は侯爵家で働く使用人の人達と同じ賄料理を食べる。しかし、賄い料理といえど食事内容は充実している。彼らは最初客人である私と同じ厨房で、しかも賄い料理を食べさせるなどとんでもないと言ったのだが、そこは私のかつてない希望で、彼らは私の言う通りにしてくれた。けれどもいつしか私は彼らととても親しくなり、毎日の昼食がとても楽しい時間となっていた。
「ライザ様、今日も午後から写生をされるのですか?」
皆で食事を取りながら一番年若いメイドが声をかけてきた。
「そうなの。ジュリアン侯爵家の邸宅はとにかく広くてお庭も美しいから写生のし甲斐があるわ」
「そういえば聞きましたよ。ライザ様の描いた風景画は今、画廊で徐々に人気が上がってきて、先週は5枚も売れたそうですね。しかも1枚金貨2枚で売れるなんてすごいですっ!」
年若いフットマンが瞳をキラキラさせる。
「ええ。少しは自分でも稼いでおかないとね。いつまでもジュリアン侯爵のお世話になっているわけにもいかないし。自分で生計を立てられるうになったらここを出て行くつもりよ。安定した生活を送れるようになったら徐々にジュリアン侯爵にお金を返していかないとならないしね」
すると何故か私の言葉にその場にいた全員が氷ついたようになる。
「え? 皆さん? どうしたの?」
しかし、全員が何故か水を打ったように静まり返っている。何か妙な事を言ってしまっただろうか?
しかし、やがて一人のフットマンが口を開いた。
「ライザ様……まさかそのように考えておられたのですか?」
「ひょっとして何も侯爵様からお話を伺っていないのですか?」
「全く……侯爵様は仕事の虫だから!」
「ほんとうに。これだから28歳にもなっていまだに独身なのですよ」
等々、いつの間にかジュリアン侯爵の陰口にへと変わっていた。
…それにして知らなかった。ジュリアン侯爵は28歳。私よりも10歳年上だったのか。20代だとは思っていたけれども。だけどその年まで独身で、みたところ恋人もいないようである。
「もったいないわ……」
ポツリと思わず呟いた――
****
昼食後、スケッチブックに水彩色鉛筆のセットを持って庭園の写生へ行こうとした時である。
――コンコン
自室のドアがノックされ、メイドが声をかけてきた。
「ライザ様。モンタナ家より使者の方が参りました。ぜひともライザ様にお目通りしたいとのことです」
「え? モンタナ家から?」
急いでドアを開けると、そこにはメイドが立っていた。
「あ。ライザ様……いかが致しましょうか?」
「……今行きます」
私がモンタナ家を出てからもうすぐ一か月。ずっとあの屋敷の様子が気になっていた。父は、母は……そしてカサンドラはどうしているのだろう?
ここに使者がやってきたという事はきっと何かがあったという事なのだろう。
私は足早にエントランスへと向かった――