虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む

4-2 悪女の微笑み

「も、申し訳ございません。ライザ様」

「どうしてもお願いしたい事がございます」

エントランスにいくと、そこにいたのはカサンドラ付きの意地悪な2人のメイドであった。2人ともガタガタと震えている。

「あなた達、私にあれだけ散々意地悪な事をしておいてよくもここまで来れたわね? しかもお願い? 図々しいにもほどがあるわ。お願い事ならあなた達の大切な主、カサンドラにお願いすればいいでしょう? もう帰ってくれる?」

全くこんなくだらない事に貴重な時間を費やしてしまった。早く写生をしに行こう。2人のメイドに背を向けて部屋に戻ろうとしたところ、悲鳴交じりで呼び止められた。

「お願いというのはカサンドラ様の事なのですっ!」

「どうかカサンドラ様をお助け下さいっ!」

その言葉に足を止めた。カサンドラの事でのお願い? 助けてほしい? と言う事はカサンドラは今何か大変な状況下に置かれている事になるのだが……。
それにしてはおかしな話だ。あと3日でカサンドラの18歳の誕生日がやってくる。しかも今回は貴族たちに招待状を送っている。それなのにカサンドラが助けを求めている? 
今は盛大なパーティー準備で浮かれていると言う話ならまだしも、全く腑に落ちない話だ。

だけど……。

私は2人のメイドに背を向けた状態で笑みを浮かべた。
カサンドラが困っている状況に置かれているのなら、その様子を拝みに行くのも一興かもしれない。

「分かったわ。カサンドラが困っているなら見捨てるわけにはいかないものね?」

私は振り向くとこれ見よがしに笑みを浮かべた。すると2人のメイドは感動した様子で目に涙をうかべながら感謝の言葉を述べる。

「ああ、なんという慈悲深い微笑みでしょう」

「さすがはライザ様。やはりお2人の間には家族の絆があったのですね」

家族の絆? 反吐が出そうな言葉を吐くメイドに私は苛立ちを押さえるのに苦労した。愚かなメイドたちは私がカサンドラを助ける為にモンタナ家へ行くものだと思っている。
冗談じゃない。私はあの家族たちに18年間ずっと虐げられ続け、ついに悪女になろうと決めたのだ。私がモンタナ家へ行くのは困った状況下のカサンドラの顔を拝みに行き、侮蔑の言葉を浴びせる為に行くのだ。

「さあ、では早くモンタナ家へ向かいましょう」

****
****

馬車へ向かうと御者がいない。

「あら? 御者はどうしたのかしら?」

すると1人のメイドが答えた。

「御者はいません。私たちが馬車をここまで走らせてきました」

「あ、あら? そうなの。よく出来たわね?」

「ありがとうございますっ! 初めてやってみたのですがうまくいきましたっ!」

そのメイドは目をキラキラさる。

え……? 別に褒めたつもりではないのだが、ものすごくこの馬車に乗るのは不安だ。

「悪いけどこの馬車に乗るのは遠慮しておくわ。ジュリアン侯爵の馬車を借りる許可をもらってくるから、あなた達だけでモンタナ家へ行って頂戴」

「はい……」

「分かりました……」

2人のメイドは明らかに落胆した様子で、慣れない手つきで馬車を走らせて帰って行った。その様子を見ながら思わずため息が出てしまう。

「全くどういう事なのかしら? メイドだけで馬車を走らせてくるなんて……。もしかして勝手に馬車を持ち出した?」

それにしても一体今モンタナ家では何が起こっているのだろう? 私に助けを求めるカサンドラ付きの2人のメイド。そして恐らく勝手に借りてきた馬車……。

「これは、そうとう面白い事になっているのかもね……」

私は悪女らしい笑みを浮かべ、ジュリアン侯爵の馬車を借りに厩舎へと向かった――

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