虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
「どうもありがとうございました。帰りは辻馬車を拾って帰るので、お待ちいただかなくても大丈夫ですよ」
私を乗せてくれた初老の御者にお礼を述べると、彼は笑顔を見せて走り去って行った。
さて……。
両手を腰にあてて、改めて約一か月ぶりの我が家を眺めた。これと言って変わった様子はない。
その時。
ガラガラガラガラ……
背後で馬車が近付いてくる音が聞こえてきた。
「お客様かしら?」
振り向いた私は驚いた。それはカサンドラ付きの2人のメイドたちが馬車を走らせて帰ってきたからだ。
う、嘘でしょう?
私よりもずっと早く馬車に乗って出発したのに……? するとメイドたちは屋敷の前で立っていた私の姿に気が付いて、慌てて馬車の手綱を引いて止めようとし……そのまま走り去って行ってしまった。
「……良かったわ。あの馬車に乗らなくて」
通り過ぎて行った時、メイドたちはキャキャアと悲鳴を上げていたけれど、多分大丈夫であろう。どのみち彼女たちがどうなろうと馬車がどうなろうとこちらの知ったことではない。
私は頷くと屋敷の入口へ向かい、扉を開けた――
****
さて、とりあえずカサンドラに会いに行ってみよう。
廊下を歩いていると、メイドの一人が真正面から歩いてきて私に気が付いた。
「も、もしかしてライザ様ですか!?」
「ええ、そうだけど?」
私はツカツカとメイドに近づき、答えた。
「そ、そんなまさか……」
メイドは震えている。
「何? 私がここにいるのがそんなに嫌なのかしら?」
するとメイドは激しく首を振った。
「い、いえ! そうではありませんっ! まさかライザ様が、ここまでお美しくなられていたとは思わなかったのですっ!」
え? 美しくなった? この私が? 一体このメイドは何を言い出すのだろう? しかしメイドは続ける。
「あれほどガリガリにお痩せで、髪にツヤも無く、血色の悪い肌をされていたのに、今はすっかり女性らしい体形になり、髪もサラツヤ。そして健康そうな肌の色……。まさに驚きですっ!」
「あ……そ、そう?」
当然の事だ。ここでは満足のいく食事を食べたことなど無い。私はいつも飢えていた。しかも着ていたドレスは全て母のお下がりで古臭くてかび臭い、時代錯誤も甚だしいドレスを着させられていたのだから。でも、そんなことはもうどうでもい。
「それじゃ私はカサンドラの所へ行ってくるから。顔だけ見たらすぐに帰るわ」
そしてメイドの脇をすり抜けてカサンドラの部屋へ向かおうとした時、背後からメイドに声をかけられた。
「あ、あの……カサンドラ様はここにはおらません」
「え? いない? それでは一体どこにいるの?」
「は、はい。この屋敷ではなく、離れにおられます」
「離れ?」
そんなものはこのモンタナ家には無かったはずなのに…?
すると私の考えを察知したのかメイドが答えた。
「はい、実は離れは最近旦那様の命により建てられたばかりなのでございます。そこにカサンドラ様はおります」
「そ、そうなの?」
「はい、左様でございます」
一体どういうことなのだろう? カサンドラの部屋はこの屋敷で一番立派で豪華なつくりだったはずなのに何故離れに? それともその離れはもっと素敵な建物なのだろうか?
「それじゃ、そこの離れに案内してくれる?」
「……」
しかし、メイドは返事をしない。
「ねえ。私はカサンドラに呼ばれてここに来たのよ?」
少しイラついた養子でメイドを見ると、彼女は肩を跳ね上げた。
「わ、分かりました。ご案内致します……」
離れは中庭の隅に建てられていた。それはとても小さな家だったが、外壁は全て白いレンガに赤い屋根のとても可愛らしい家である。そして何故かドアの前にはフットマンが立っている。そして私の姿を見ると驚愕の表情を浮かべた。
「ライザ様っ! な、何故こちらに?」
フットマンの顔は青ざめている。
「何故って? カサンドラ付きのメイドが私に助けを求めに来たのよ? でも貴方はこんなところで一体何をしているの?」
「じ、実は……見張りをしているのです……」
「見張り?」
「ええ。旦那様の命によりカサンドラ様が逃げ出さないように見張りをしております……」
私はその言葉に息を飲んだ――
私を乗せてくれた初老の御者にお礼を述べると、彼は笑顔を見せて走り去って行った。
さて……。
両手を腰にあてて、改めて約一か月ぶりの我が家を眺めた。これと言って変わった様子はない。
その時。
ガラガラガラガラ……
背後で馬車が近付いてくる音が聞こえてきた。
「お客様かしら?」
振り向いた私は驚いた。それはカサンドラ付きの2人のメイドたちが馬車を走らせて帰ってきたからだ。
う、嘘でしょう?
私よりもずっと早く馬車に乗って出発したのに……? するとメイドたちは屋敷の前で立っていた私の姿に気が付いて、慌てて馬車の手綱を引いて止めようとし……そのまま走り去って行ってしまった。
「……良かったわ。あの馬車に乗らなくて」
通り過ぎて行った時、メイドたちはキャキャアと悲鳴を上げていたけれど、多分大丈夫であろう。どのみち彼女たちがどうなろうと馬車がどうなろうとこちらの知ったことではない。
私は頷くと屋敷の入口へ向かい、扉を開けた――
****
さて、とりあえずカサンドラに会いに行ってみよう。
廊下を歩いていると、メイドの一人が真正面から歩いてきて私に気が付いた。
「も、もしかしてライザ様ですか!?」
「ええ、そうだけど?」
私はツカツカとメイドに近づき、答えた。
「そ、そんなまさか……」
メイドは震えている。
「何? 私がここにいるのがそんなに嫌なのかしら?」
するとメイドは激しく首を振った。
「い、いえ! そうではありませんっ! まさかライザ様が、ここまでお美しくなられていたとは思わなかったのですっ!」
え? 美しくなった? この私が? 一体このメイドは何を言い出すのだろう? しかしメイドは続ける。
「あれほどガリガリにお痩せで、髪にツヤも無く、血色の悪い肌をされていたのに、今はすっかり女性らしい体形になり、髪もサラツヤ。そして健康そうな肌の色……。まさに驚きですっ!」
「あ……そ、そう?」
当然の事だ。ここでは満足のいく食事を食べたことなど無い。私はいつも飢えていた。しかも着ていたドレスは全て母のお下がりで古臭くてかび臭い、時代錯誤も甚だしいドレスを着させられていたのだから。でも、そんなことはもうどうでもい。
「それじゃ私はカサンドラの所へ行ってくるから。顔だけ見たらすぐに帰るわ」
そしてメイドの脇をすり抜けてカサンドラの部屋へ向かおうとした時、背後からメイドに声をかけられた。
「あ、あの……カサンドラ様はここにはおらません」
「え? いない? それでは一体どこにいるの?」
「は、はい。この屋敷ではなく、離れにおられます」
「離れ?」
そんなものはこのモンタナ家には無かったはずなのに…?
すると私の考えを察知したのかメイドが答えた。
「はい、実は離れは最近旦那様の命により建てられたばかりなのでございます。そこにカサンドラ様はおります」
「そ、そうなの?」
「はい、左様でございます」
一体どういうことなのだろう? カサンドラの部屋はこの屋敷で一番立派で豪華なつくりだったはずなのに何故離れに? それともその離れはもっと素敵な建物なのだろうか?
「それじゃ、そこの離れに案内してくれる?」
「……」
しかし、メイドは返事をしない。
「ねえ。私はカサンドラに呼ばれてここに来たのよ?」
少しイラついた養子でメイドを見ると、彼女は肩を跳ね上げた。
「わ、分かりました。ご案内致します……」
離れは中庭の隅に建てられていた。それはとても小さな家だったが、外壁は全て白いレンガに赤い屋根のとても可愛らしい家である。そして何故かドアの前にはフットマンが立っている。そして私の姿を見ると驚愕の表情を浮かべた。
「ライザ様っ! な、何故こちらに?」
フットマンの顔は青ざめている。
「何故って? カサンドラ付きのメイドが私に助けを求めに来たのよ? でも貴方はこんなところで一体何をしているの?」
「じ、実は……見張りをしているのです……」
「見張り?」
「ええ。旦那様の命によりカサンドラ様が逃げ出さないように見張りをしております……」
私はその言葉に息を飲んだ――