虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
1-5 私は画家?
私は馬車も御供する者も連れずに、歩いて20分程の下町へとやって来た。
綺麗に舗装された石畳を鼻歌を歌いながらのんびり歩いていると、やがてメインストリートに出る。その場所は一番人通りも激しく、当然立ち並ぶ店はどれも人気店ばかりだ。アクセサリーショップや、雑貨店。香水を扱う店もあれば、スイーツ店もある。そして一番賑わっているのが、昨年オープンしたばかりの洋品店だ。
その名も『レディ・アート』。最先端デザインの洋服やドレスを扱う店である。中でも特徴的なのが、この店のブランドを意味する刺繍。美しい蝶が必ず衣装の端々に刺繍されているのだ。
「うまい具合に営業戦略を立てているわよね」
私は店の前に立ち、ウィンドウを眺めながら呟いた。本来ならこの店の前でマネキンが着ているドレスを描き写したいが、そんな事をすればデザインを盗むライバル店の回し者と思われて掴まりかねない。私は抜群の記憶力を持っている。だからここに並ぶ服やドレスをじっくり目に焼き付けて、後で何処かでスケッチブックに描き写そう。
ウィンドウを眺める事、約20分。途中、店員がショーウィンドウ越しに気味悪そうに私を見ていたが、特に追い払われる事も無かったので、私は思う存分ドレスのデザインを脳裏に焼き付けると、その場を後にした。
「さて、どこで絵を描こうかしら……」
辺りを見渡すと広場が見えた。それに真っ白いベンチが等間隔に3台並んでいる。誰も座っていないベンチに腰掛けると早速袋の中からスケッチブックと色鉛筆を取り出す。そして先ほどのショーウィンドウで見たドレスを記憶を頼りに描き始めた。自分で言うのもなんだが私は頭が良いだけでは無く、絵の才能も溢れているのだ。
「こんな感じのデザインだったわよね……」
あの店に並んでいたドレスの色はクリームイエロー。ツルツルしたサテン生地の様なベアトップのフレアーロングドレス。さらに上半身だけは五分袖のレースが縫い付けられ、ウエスト部分は太めのリボンが付いている。そして一番の特徴はドレスの裾部分には美しい蝶の刺繍が施されている。
シャッシャッと色鉛筆を夢中で走らせ……。
「出来たわっ!」
ついに完成したイラストを掲げた時、一斉に拍手が起こった。
「え? え?」
慌てて周囲を見渡すとそこには10数名の人だかりが出来ており、皆が私のイラストを見て拍手喝さいを送っている。
「いや~なんて素晴らしい絵なんだ!」
「本当……素敵なドレスねえ……」
「驚いたよ! こんな僅かな色でこれほどの絵を描けるなんて……」
誰もが尊敬の眼差しで私を見ている。今まで私は家の者達から蔑みの目でしか見られて事が無かったので、彼らの視線がとても眩しく、恥ずかしくなってしまった。
「あ、ありがとうございます……」
思わず礼を言うと。ますます拍手は大きくなる。そこで私は彼らにスケッチブックを直接手渡してイラストを見せて上げると皆が感心しながら一人、また一人と去って行った。
「ふう……一体今のは何だったのかしら……。そう言えば今、何時かしら?」
すると背後から男性の声が聞こえてきた。
「今は午後の1時半だよ。レディ」
「え?」
慌てて振り向くと、そこには黒い髪に青い瞳の美青年が私をじっと見下ろしていた――
綺麗に舗装された石畳を鼻歌を歌いながらのんびり歩いていると、やがてメインストリートに出る。その場所は一番人通りも激しく、当然立ち並ぶ店はどれも人気店ばかりだ。アクセサリーショップや、雑貨店。香水を扱う店もあれば、スイーツ店もある。そして一番賑わっているのが、昨年オープンしたばかりの洋品店だ。
その名も『レディ・アート』。最先端デザインの洋服やドレスを扱う店である。中でも特徴的なのが、この店のブランドを意味する刺繍。美しい蝶が必ず衣装の端々に刺繍されているのだ。
「うまい具合に営業戦略を立てているわよね」
私は店の前に立ち、ウィンドウを眺めながら呟いた。本来ならこの店の前でマネキンが着ているドレスを描き写したいが、そんな事をすればデザインを盗むライバル店の回し者と思われて掴まりかねない。私は抜群の記憶力を持っている。だからここに並ぶ服やドレスをじっくり目に焼き付けて、後で何処かでスケッチブックに描き写そう。
ウィンドウを眺める事、約20分。途中、店員がショーウィンドウ越しに気味悪そうに私を見ていたが、特に追い払われる事も無かったので、私は思う存分ドレスのデザインを脳裏に焼き付けると、その場を後にした。
「さて、どこで絵を描こうかしら……」
辺りを見渡すと広場が見えた。それに真っ白いベンチが等間隔に3台並んでいる。誰も座っていないベンチに腰掛けると早速袋の中からスケッチブックと色鉛筆を取り出す。そして先ほどのショーウィンドウで見たドレスを記憶を頼りに描き始めた。自分で言うのもなんだが私は頭が良いだけでは無く、絵の才能も溢れているのだ。
「こんな感じのデザインだったわよね……」
あの店に並んでいたドレスの色はクリームイエロー。ツルツルしたサテン生地の様なベアトップのフレアーロングドレス。さらに上半身だけは五分袖のレースが縫い付けられ、ウエスト部分は太めのリボンが付いている。そして一番の特徴はドレスの裾部分には美しい蝶の刺繍が施されている。
シャッシャッと色鉛筆を夢中で走らせ……。
「出来たわっ!」
ついに完成したイラストを掲げた時、一斉に拍手が起こった。
「え? え?」
慌てて周囲を見渡すとそこには10数名の人だかりが出来ており、皆が私のイラストを見て拍手喝さいを送っている。
「いや~なんて素晴らしい絵なんだ!」
「本当……素敵なドレスねえ……」
「驚いたよ! こんな僅かな色でこれほどの絵を描けるなんて……」
誰もが尊敬の眼差しで私を見ている。今まで私は家の者達から蔑みの目でしか見られて事が無かったので、彼らの視線がとても眩しく、恥ずかしくなってしまった。
「あ、ありがとうございます……」
思わず礼を言うと。ますます拍手は大きくなる。そこで私は彼らにスケッチブックを直接手渡してイラストを見せて上げると皆が感心しながら一人、また一人と去って行った。
「ふう……一体今のは何だったのかしら……。そう言えば今、何時かしら?」
すると背後から男性の声が聞こえてきた。
「今は午後の1時半だよ。レディ」
「え?」
慌てて振り向くと、そこには黒い髪に青い瞳の美青年が私をじっと見下ろしていた――