虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
4-13 悪女の微笑みと最高のショータイム
「皆様! 大変長らくお待たせいたしましたっ! これより結婚披露パーティーを開催させていただきます! まずは新郎新婦の登場です! こちらの階段にご注目下さい!」
すると来賓客達は一斉に拍手をする。そして父の執事の言葉に、その場に居合わせた出席者全員が螺旋階段に注目する。
階段の中腹にはいつの間にかウェディングドレスに身を包んだカサンドラが立っていた。長いヴェールに半分顔が隠れたカサンドラは何所か震えて見えた。
そして隣に立っているのは……。
「え……?」
目を疑った。そこには真っ白な燕尾服を着用した父の姿があったからだ。2人は腕を組んでそこに立っていた。
「お父様……? カサンドラの介添人かしら……?」
それにしては何だか様子がおかしい。私の目がおかしくなってしまったのだろうか? どう見ても父の姿は花婿姿に見えてしまう。
「フフフ……。ライザ、いよいよショーの始まりだよ」
私の背後に立つジュリアン侯爵が耳元で囁く。
「ジュリアン様……?」
私はジュリアン侯爵の息遣いを感じながら横目で見た。
「さあ、ライザ。今から片時も目を離さずに見守っていようか?」
それはゾクリとするほど妖艶な声だった。私は静かに事の成り行きを見守ることにした。
父はカサンドラの腕を強引に引くように螺旋階段をゆっくりと降りて来る。徐々に近づいてくる父とカサンドラ。
「!」
やがてホールに降りてくるとカサンドラは顔をあげた。その顔は真っ青で絶望の色が宿っている。そしてあろう事か、この大観衆の中、カサンドラの視線が私を捕らえると、目を見開き口を大きく開けて何かを言った。しかし、その声は言葉として出てこない。
<た す け て>
カサンドラの口は……間違いなくこの言葉を言っていた。
ゾワッ!
その瞬間、私は全身に鳥肌が立つのを感じた。カサンドラが目を見開き、私に助けを求めているのだ。しかし、来賓客達はカサンドラの様子に気付いているのか、いないのか大喜びで拍手をしている。
「どうやらカサンドラはモンタナ伯爵に何か薬を盛られているね。自分の意思を奪う薬か……もしくは言葉を話せなくなる薬。多分彼に薬を渡したのはエンブロイ侯爵だろう。……さあ、ライザ。哀れなカサンドラを助けに行くかい?」
ジュリアン侯爵の声は、まるで悪魔の誘惑の様に甘美に感じる。
私はカサンドラを見つめる。そしてカサンドラは必死に助けを求める目で私を見つめている。
「カサンドラを助ける? まさか私がそのような真似するはずはありません。だって、こんな素敵なショーをぶち壊すなど……それこそ野暮な真似だと思いませんか?」
するとジュリアン侯爵はニッコリとほほ笑む。
「最高だよ、ライザ」
やがて盛大な拍手が鳴りやむと父が話し始めた。
「皆さん! 本日は私とカサンドラの結婚披露パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます! どうぞこのまま食事とご歓談をお楽しみください。私とカサンドラはご挨拶に伺ったまでですので、もう退散させて頂きます。何せ……」
父はカサンドラの肩を掴み、グイッと引き寄せた。
「今宵は……私たちの初夜となりますから……」
父の言葉を聞いたカサンドラの顔に恐怖が宿る。身体は小刻みに震え、顔はもはや真っ白になっている。そしてまるで打ち上げられた魚の様に口をパクパク動かすが、言葉としては出てこない。
カサンドラは必死で私を見つめているが……私は冷たい瞳でカサンドラを見るとゆっくり言葉を紡いだ。
<お め で と う>
するとカサンドラはその言葉を理解したのか、目に大粒の涙を浮かべる。
父はそんなカサンドラに構うことなく、抱き寄せると強引に唇を重ねた。
「!!」
その瞬間、カサンドラは身体をガクガクと振るわせた。父は人目もはばからず、カサンドラの唇をむさぼっている。やがて長い口づけが終わると、軽々と彼女を抱きかかえて来賓客達に背を向けるとゆっくりと歩き去って行った。連れ去られていくカサンドラはもはや動くことも出来ないようだった。
途端に来賓客達の間にざわめきが起こる。その誰もが下卑た内容ばかりを話し、楽し気に歓談していた。
「しかし、羨ましい。あの様に若い花嫁を抱けるのだから」
「きっと今宵は熱い夜になるでしょうな?」
「我々にもおすそわけしてもらいたくらいですよ」
そんな会話を聞きながら私はジュリアン侯爵を見上げた。
「ジュリアン様。何故女性客がここに呼ばれていないのか分かりました」
ジュリアン侯爵は黙って私を見つめる。
「女性客達がいれば非難が殺到するかもしれないと父は思ったからですね?」
「そうだよ、ライザ。でも君なら黙って見届けると思っていたよ。それでどうだった? 今夜のショーは?」
「はい、最高に楽しいショーでした」
私は満面の笑みを浮かべてジュリアン侯爵を見つめた。
「そうかい、それは良かった。それでは帰ろうか? 今夜はカサンドラとモンタナ伯爵夫人のショーだったけど……いよいよ明日はモンタナ伯爵の番だよ。幸せの絶頂にいる処から、不幸のどん底へ叩き落とされる……その様を見届けさせてあげるよ。彼は裁きを受けなければいけない悪人だからね」
「それは今からとても楽しみですわ」
そして私たちは微笑み合い、モンタナ家を後にした――
すると来賓客達は一斉に拍手をする。そして父の執事の言葉に、その場に居合わせた出席者全員が螺旋階段に注目する。
階段の中腹にはいつの間にかウェディングドレスに身を包んだカサンドラが立っていた。長いヴェールに半分顔が隠れたカサンドラは何所か震えて見えた。
そして隣に立っているのは……。
「え……?」
目を疑った。そこには真っ白な燕尾服を着用した父の姿があったからだ。2人は腕を組んでそこに立っていた。
「お父様……? カサンドラの介添人かしら……?」
それにしては何だか様子がおかしい。私の目がおかしくなってしまったのだろうか? どう見ても父の姿は花婿姿に見えてしまう。
「フフフ……。ライザ、いよいよショーの始まりだよ」
私の背後に立つジュリアン侯爵が耳元で囁く。
「ジュリアン様……?」
私はジュリアン侯爵の息遣いを感じながら横目で見た。
「さあ、ライザ。今から片時も目を離さずに見守っていようか?」
それはゾクリとするほど妖艶な声だった。私は静かに事の成り行きを見守ることにした。
父はカサンドラの腕を強引に引くように螺旋階段をゆっくりと降りて来る。徐々に近づいてくる父とカサンドラ。
「!」
やがてホールに降りてくるとカサンドラは顔をあげた。その顔は真っ青で絶望の色が宿っている。そしてあろう事か、この大観衆の中、カサンドラの視線が私を捕らえると、目を見開き口を大きく開けて何かを言った。しかし、その声は言葉として出てこない。
<た す け て>
カサンドラの口は……間違いなくこの言葉を言っていた。
ゾワッ!
その瞬間、私は全身に鳥肌が立つのを感じた。カサンドラが目を見開き、私に助けを求めているのだ。しかし、来賓客達はカサンドラの様子に気付いているのか、いないのか大喜びで拍手をしている。
「どうやらカサンドラはモンタナ伯爵に何か薬を盛られているね。自分の意思を奪う薬か……もしくは言葉を話せなくなる薬。多分彼に薬を渡したのはエンブロイ侯爵だろう。……さあ、ライザ。哀れなカサンドラを助けに行くかい?」
ジュリアン侯爵の声は、まるで悪魔の誘惑の様に甘美に感じる。
私はカサンドラを見つめる。そしてカサンドラは必死に助けを求める目で私を見つめている。
「カサンドラを助ける? まさか私がそのような真似するはずはありません。だって、こんな素敵なショーをぶち壊すなど……それこそ野暮な真似だと思いませんか?」
するとジュリアン侯爵はニッコリとほほ笑む。
「最高だよ、ライザ」
やがて盛大な拍手が鳴りやむと父が話し始めた。
「皆さん! 本日は私とカサンドラの結婚披露パーティーにお越しいただき、誠にありがとうございます! どうぞこのまま食事とご歓談をお楽しみください。私とカサンドラはご挨拶に伺ったまでですので、もう退散させて頂きます。何せ……」
父はカサンドラの肩を掴み、グイッと引き寄せた。
「今宵は……私たちの初夜となりますから……」
父の言葉を聞いたカサンドラの顔に恐怖が宿る。身体は小刻みに震え、顔はもはや真っ白になっている。そしてまるで打ち上げられた魚の様に口をパクパク動かすが、言葉としては出てこない。
カサンドラは必死で私を見つめているが……私は冷たい瞳でカサンドラを見るとゆっくり言葉を紡いだ。
<お め で と う>
するとカサンドラはその言葉を理解したのか、目に大粒の涙を浮かべる。
父はそんなカサンドラに構うことなく、抱き寄せると強引に唇を重ねた。
「!!」
その瞬間、カサンドラは身体をガクガクと振るわせた。父は人目もはばからず、カサンドラの唇をむさぼっている。やがて長い口づけが終わると、軽々と彼女を抱きかかえて来賓客達に背を向けるとゆっくりと歩き去って行った。連れ去られていくカサンドラはもはや動くことも出来ないようだった。
途端に来賓客達の間にざわめきが起こる。その誰もが下卑た内容ばかりを話し、楽し気に歓談していた。
「しかし、羨ましい。あの様に若い花嫁を抱けるのだから」
「きっと今宵は熱い夜になるでしょうな?」
「我々にもおすそわけしてもらいたくらいですよ」
そんな会話を聞きながら私はジュリアン侯爵を見上げた。
「ジュリアン様。何故女性客がここに呼ばれていないのか分かりました」
ジュリアン侯爵は黙って私を見つめる。
「女性客達がいれば非難が殺到するかもしれないと父は思ったからですね?」
「そうだよ、ライザ。でも君なら黙って見届けると思っていたよ。それでどうだった? 今夜のショーは?」
「はい、最高に楽しいショーでした」
私は満面の笑みを浮かべてジュリアン侯爵を見つめた。
「そうかい、それは良かった。それでは帰ろうか? 今夜はカサンドラとモンタナ伯爵夫人のショーだったけど……いよいよ明日はモンタナ伯爵の番だよ。幸せの絶頂にいる処から、不幸のどん底へ叩き落とされる……その様を見届けさせてあげるよ。彼は裁きを受けなければいけない悪人だからね」
「それは今からとても楽しみですわ」
そして私たちは微笑み合い、モンタナ家を後にした――