虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む
4-14 極悪人、モンタナ伯爵の秘密 ①
翌朝――
私はジュリアン侯爵の書斎に呼ばれた。
「おはよう、ライザ。今朝の目覚めはどうだい?」
大きな窓を背に、朝日を背中から浴びて笑顔でこちらを見るジュリアン侯爵はとても神々しく見えた。
「はい、最高の目覚めでした。私を苦しめてきた母が、そしてカサンドラの悲惨な末路をこの目で見届ける事が出来たのですから」
「そうかい、それは何よりだった」
ジュリアン侯爵もニコニコしている。
「ところで、そこに乗っている書類の山は?」
私が尋ねるとジュリアン侯爵は書類の山に手を乗せた。
「これはね、モンタナ伯爵の罪状を記した書類だよ。ライザ、今からモンタナ伯爵とカサンドラの事を話してあげるよ。かなりショッキングな話になると思うから覚悟して聞いてくれるかな?」
「もうすでに昨夜ショッキングな体験をしたので、私は多少のことでは驚きませんから大丈夫ですよ」
「そうかい、それならこちらも話しやすいよ」
その言葉にジュリアン侯爵は満足そうに頷いた。
「ええ。ではお話をお聞かせいただけますか?」
「ああ。いいよ。ではまずカサンドラについてだけど……ライザはモンタナ伯爵からはカサンドラを従妹だと聞かされていたよね?」
「ええ。父からそう聞いておりますが?」
「実はね、カサンドラと君の間に血縁関係は無いんだよ。カサンドラは全くの赤の他人だ。モンタナ伯爵が偽造したんだね。それだけじゃない。モンタナ伯爵はカサンドラの両親を不慮の事故に見せかけて殺害しているんだ」
「ええ!? 父が殺人を……!?」
何て事だろう。昨夜の事でショッキングな話に大分耐性が付いていたけれども、これが殺人の話となるとそうはいかない。
「驚くのは無理も無い。顔色が真っ青だよ。大丈夫かい? この話、もうやめておくかい? やっぱりライザには刺激が強すぎるかもしれない」
ジュリアン侯爵は心配そうに私を見つめる。だが……。
「いいえ…! ジュリアン様、どんな話でも受け止める覚悟は出来ております。話の続きをお聞かせください」
「分かった……それでは続きを話してあげよう。君の父、モンタナ伯爵は若い頃愛する女性がいた。しかし、それは一方的な愛だった。その相手の彼女には婚約者がいたんだ。モンタナ伯爵はどうしても彼女を忘れることが出来ず、付きまといをはじめ、ついに一計を案じた婚約者は彼女を傍において守る為に結婚式を挙げたんだ。この書類がモンタナ伯爵から付きまといを受けていた当時のカサンドラの母君の訴えなんだ」
ジュリアン侯爵は書類の一つの山に手を置く。
「愛する女性が別の男性と結婚してしまった事で自棄を起こしたモンタナ伯爵は当時、見合い話が出ていた女性とあっさり結婚してしまった。それがライザ。君の母君だよ。つまりモンタナ伯爵は全く愛を感じない女性と結婚してしまったんだ。だからなのかもね。君をこんな不当な扱い方をして育ててきたのは」
ジュリアン侯爵は同情の目で私を見た。
「モンタナ伯爵は結婚しても、まだカサンドラの母の事をずっと忘れられず生きてきたんだ。それこそ10年間もね。どうすればカサンドラの母を手に入れることが出来るか……そしてついにモンタナ伯爵は悪い男達と手を結び、事故に見せかけて愛する女性の夫、つまりはカサンドラの父親を殺害する計画を立てたんだよ。馬車の事故を装ってね。そしてある嵐の晩……計画は実行された」
私はゴクリと息を飲んで、話の続きを待った。
「そして馬車の事故は起こった。ただし、とんだ誤算があったんだよ。何とその馬車には運悪く自分の愛する女性も乗っていた。つまり、モンタナ伯爵は自分の愛する女性迄殺してしまったんだよ」
そこまで話すとジュリアン侯爵は目を閉じた――
私はジュリアン侯爵の書斎に呼ばれた。
「おはよう、ライザ。今朝の目覚めはどうだい?」
大きな窓を背に、朝日を背中から浴びて笑顔でこちらを見るジュリアン侯爵はとても神々しく見えた。
「はい、最高の目覚めでした。私を苦しめてきた母が、そしてカサンドラの悲惨な末路をこの目で見届ける事が出来たのですから」
「そうかい、それは何よりだった」
ジュリアン侯爵もニコニコしている。
「ところで、そこに乗っている書類の山は?」
私が尋ねるとジュリアン侯爵は書類の山に手を乗せた。
「これはね、モンタナ伯爵の罪状を記した書類だよ。ライザ、今からモンタナ伯爵とカサンドラの事を話してあげるよ。かなりショッキングな話になると思うから覚悟して聞いてくれるかな?」
「もうすでに昨夜ショッキングな体験をしたので、私は多少のことでは驚きませんから大丈夫ですよ」
「そうかい、それならこちらも話しやすいよ」
その言葉にジュリアン侯爵は満足そうに頷いた。
「ええ。ではお話をお聞かせいただけますか?」
「ああ。いいよ。ではまずカサンドラについてだけど……ライザはモンタナ伯爵からはカサンドラを従妹だと聞かされていたよね?」
「ええ。父からそう聞いておりますが?」
「実はね、カサンドラと君の間に血縁関係は無いんだよ。カサンドラは全くの赤の他人だ。モンタナ伯爵が偽造したんだね。それだけじゃない。モンタナ伯爵はカサンドラの両親を不慮の事故に見せかけて殺害しているんだ」
「ええ!? 父が殺人を……!?」
何て事だろう。昨夜の事でショッキングな話に大分耐性が付いていたけれども、これが殺人の話となるとそうはいかない。
「驚くのは無理も無い。顔色が真っ青だよ。大丈夫かい? この話、もうやめておくかい? やっぱりライザには刺激が強すぎるかもしれない」
ジュリアン侯爵は心配そうに私を見つめる。だが……。
「いいえ…! ジュリアン様、どんな話でも受け止める覚悟は出来ております。話の続きをお聞かせください」
「分かった……それでは続きを話してあげよう。君の父、モンタナ伯爵は若い頃愛する女性がいた。しかし、それは一方的な愛だった。その相手の彼女には婚約者がいたんだ。モンタナ伯爵はどうしても彼女を忘れることが出来ず、付きまといをはじめ、ついに一計を案じた婚約者は彼女を傍において守る為に結婚式を挙げたんだ。この書類がモンタナ伯爵から付きまといを受けていた当時のカサンドラの母君の訴えなんだ」
ジュリアン侯爵は書類の一つの山に手を置く。
「愛する女性が別の男性と結婚してしまった事で自棄を起こしたモンタナ伯爵は当時、見合い話が出ていた女性とあっさり結婚してしまった。それがライザ。君の母君だよ。つまりモンタナ伯爵は全く愛を感じない女性と結婚してしまったんだ。だからなのかもね。君をこんな不当な扱い方をして育ててきたのは」
ジュリアン侯爵は同情の目で私を見た。
「モンタナ伯爵は結婚しても、まだカサンドラの母の事をずっと忘れられず生きてきたんだ。それこそ10年間もね。どうすればカサンドラの母を手に入れることが出来るか……そしてついにモンタナ伯爵は悪い男達と手を結び、事故に見せかけて愛する女性の夫、つまりはカサンドラの父親を殺害する計画を立てたんだよ。馬車の事故を装ってね。そしてある嵐の晩……計画は実行された」
私はゴクリと息を飲んで、話の続きを待った。
「そして馬車の事故は起こった。ただし、とんだ誤算があったんだよ。何とその馬車には運悪く自分の愛する女性も乗っていた。つまり、モンタナ伯爵は自分の愛する女性迄殺してしまったんだよ」
そこまで話すとジュリアン侯爵は目を閉じた――