虐げられた人生に別れを告げた私は悪女の道を歩む

4-15 極悪人、モンタナ伯爵の秘密 ②

「そ、その後は…‥?」

声を震わせながら尋ねた。

「カサンドラの両親は身分違いの恋愛をしていたから、互いに家族との縁を切られていたんだ。そこで当時10歳のカサンドラは行き場を失ってしまった。そこでモンタナ伯爵は偽造の書類を作り上げ、叔父だと偽って葬儀場の席でカサンドラに近づき、彼女を引き取ったのさ。おそらく当時は純粋に罪滅ぼしの為だったのかもしれないけれど……カサンドラが成長するとともに、かつて愛した女性の面影が強くなっていき、ついにはよこしまな考えを持つようになったんだろうね。この国では女性は18歳になると成人したとみなされ、結婚する事も出来る。モンタナ伯爵はカサンドラを自分の花嫁にする為に、大切に育てて手元に置き……彼女の周りから男を遠ざけたんだ」

私はジュリアン侯爵の話を聞き、あまりの内容に絶句し、父の常軌を逸したおぞましい人間性に吐き気すら覚えてしまった。

「大丈夫かい? 酷く震えているよ?」

ジュリアン侯爵は心配そうに私を見つめている。

「い、いえ……大丈夫です。それにしても……わが父ながら……なんておぞましい……」


「モンタナ伯爵は10年間ずっと脅迫され続け、お金をむしり取られてきた。君もレストランで会ったよね? あいつらが実行犯なんだ。そしてとうとうお金が底をつき、彼は借金をするようになった。そしてついに君をエンブロイ侯爵に売って、そのお金を実行犯たちに渡すまでになっていた。もうすでにモンタナ伯爵たちには逮捕状が出されている。今頃は捕まっている頃だろう。でも捕まる直前に彼は念願のカサンドラを手に入れることが出来たのだから一時的に幸せな夢を見ることが出来たんじゃないかな? 尤もカサンドラと伯爵夫人にとっては悪夢の一夜だったかもしれないけどね」

どこか楽しそうなジュリアン侯爵。

「ジュリアン様……」

「モンタナ伯爵夫人はカサンドラが監禁される数日前に突然離婚を言い渡されたんだ。怒った彼女は自分に賛同する使用人たちを連れて実家に帰ったけど……やはり心のどこかではまだ夫を愛していたのかな? だってあんな場に現れるのだから。ある意味哀れな女性だったかもしれないが……だからと言って不倫をして他の女性達を苦しめた罪は消えない。カサンドラにしたってそうだ。いくらモンタナ伯爵が見合い相手を紹介しなくても妻子ある男性すら構わずに見境なしに手を出すのはどうかと思う。そしてライザ。君を虐待した罪もね?」

ジュリアン侯爵は立ち上がり、窓の外を眺めた。

「モンタナ伯爵は他に違法薬物に手を出した罪にも問われている。殺人罪に違法薬物……監禁罪に同意なき性行為……婦女暴行罪に問われるだろうね? おそらくは一生刑務所からは出てこれないだろう。彼を裁くのは判事であるこの私だから。私は彼を絶対に許すつもりはない。何より私は個人的に彼に恨みを抱いているからね」

そしてジュリアン侯爵は私の方を振り向いた。

「さあ、ライザ。どうする? もう一度モンタナ家に戸籍を戻すかい? 君は美人の上に頭も良い。君なら落ちぶれてしまったモンタナ家を建て直す事だって可能だろう? さあ……どうする?」

「ジュリアン様、私は……」

私は立ち上がると、ジュリアン様の傍へと歩みより、彼を見上げた――
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