完璧ブラコン番長と町の謎
「ところで、全ての対戦型、easyからvery hardまでやってるけど、一向に現れないね、『ソムニウム』」
「そうだな。ガセかもしれない」

 冬夜くんは少しほっとしつつ、申し訳なさそうに言った。

「この調子だと、小野を無駄に付き合わせてしまいそうだ」
「そんなことないよ」

 夏樹くんもゲームセンターが好きみたいだし、安心して遊べるならそれがいい。
 ……正直、変な気配はしているから、気になると言えばなるんだけど。でも別に、嫌な感じもしない。
 どれも古いゲーム機だからだろうか。古い物に取りつく妖怪――付喪神とまではいかなくても、遊んだ人たちの念がこもっているのかもしれない。

「それに私、ゲームセンターとかテーマパークに来たの初めてなんだ。だから楽しいよ」
「……そう、なのか」

 今は店長が、手持ちのゲームに誘ってくれるんだけどね。
 意外と勉強になることも多いんだよね。料理するシュミレーションゲームとか、民俗学や歴史を取り扱ったRPGゲームとか。
 なんて思っていると、冬夜くんが突然、「小野は、好きな動物はいるか?」と尋ねてきた。

「好きな動物? 牛とか好きだよ」
「…………牛か」

 ものすごく悩ましい顔をして、冬夜くんは考え込む。

「多分いないだろうから……他には?」
「鶏とか、豚も好きだけど」
「なあそれ、肉の好みの話じゃないよな?」
「肉の好みも好きだけど、動物としても好きだよ? 家にいたし」

 私がそう言うと、冬夜くんは驚いた顔をする。

「……小野の家って、牧場なのか?」
「んー、まあ設備はそれっぽいけど、違うかな。別に売るわけじゃないんだよ。ほら、十二支っているじゃない」
「ああ。……そう言えば、鶏も牛も、十二支だけど……」
「中国だと、猪は『豚』だから」

 小野家は昔、子どもが生まれる度、十二支の動物を飼う習慣があった。
 と言っても、龍は飼うような存在では無いし、虎は日本にはいない上、今はワシントン条約で取引が規制されている。羊は明治になってからようやく日本で知られるようになった。なので鯉と猫と山羊で代用している。

「ということは、小野が生まれた時には、猫を飼ったのか」
「あー……いや」

 ……なんて説明しようか悩む。
 けれど、私が口ごもっているうちに、冬夜くんはクレーンゲームの方へ向かっていった。
 何しに行っているんだろう、と思っていると、冬夜くんがクレーンを動かしていた。
 アームが掴んでいたものは、猫のぬいぐるみだ。
 あっという間に、取り出し口から猫のぬいぐるみが顔を出した。

「これ、良かったらもらってくれないか」

 そう言って手渡されるぬいぐるみに、私は思わず目を瞬かせた。 

「え……なんで?」

 お礼の言葉より先に、疑問が口から滑りでる。
 
「ゲームセンター、初めて来たんだろう。なら、形の残るお土産は必要だ。……と思ったんだが」

 余計なお世話だっただろうか? と、冬夜くんがたずねてくる。
 そのぬいぐるみは、私が知っているぬいぐるみとは違い、やわらかくてすべすべしていた。
 初めてさわる感覚に、思わず顔からもふもふする。

「ありがとう。大事にするね」

 そう言うと、冬夜くんは顔をゆるめた。

「よかった」

 そのゆるんだ顔が、あんまりにも普通の男の子みたいで、思わず自分の顔をぬいぐるみで隠した。
 なぜかぬいぐるみが、ひんやりする。
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