完璧ブラコン番長と町の謎
あかり、お昼ごはんを食べる
少し早いけれど、本格的な時間になったら混むだろうと思って、お昼ご飯にすることにした。
「午前中はゲームセンターだけで終わってしまったな」
冬夜くんがしみじみ言った。
テーマパークって、こんなに時間とるものなんだな。もし閉園時間まで間に合わなかったら、私だけでも明日調査しよう。
それより、今はお昼ご飯だ。私はワクワクしながら、包みを広げる。
買ったのは、園内のショップで買ったハンバーガーだ。
「……楽しそうに食べるな」
冬夜くんが笑って言う。
そんなに顔に出ていただろうか、私。
「『妖怪食堂』の食事の方が、ずっとおいしいんじゃないか?」
何気ない問いが、なぜか私の心につっかえた。
「……『妖怪食堂』のごはんは確かにおいしいけど、でも、これもおいしいよ?」
ここのハンバーガーは、野菜が沢山入っているけど、私はチェーン店で食べる、パンと肉とトマトを挟んだハンバーガーが大好きだった。
――母はいつも、『ハンバーガーでいい?』と申し訳なさそうに聞いた。私は、喜んでうなずく。
どうして母が、あれだけ申し訳なさそうにしているのか、当時の私にはわからなかった。
「ごはんに対して『手抜き』と批判する人が、この世にいるみたいだけど、それは『工程がシンプル』であって、貶されていいものではないと思うの。
お寿司だって握って刺身を乗せるけど、『手抜き』なんて言えないでしょ?」
唐突に話し始めた私の言葉を、じっと冬夜くんは聞いていた。
「その時、食べられるものがなんなのか、材料や予算は勿論、食べる相手の体調だってある。どれだけ手が込んでいても、風邪ひいてる子に、フルコースを食べさせるわけにはいかないじゃない」
……私は、どうしてこんなことを冬夜くんに話しているんだろう。
冬夜くんは一言も『手抜き』だとは言っていないのに、私はそう受け止めてしまった。
冬夜くんは何も返さなかった。でも、無視もせず聞いていた。その目は、口にしない私の望みを見透かしているようで、それがなんだか居心地悪かった。
「ごめん、ちょっとお手洗いに行ってくるね」
じわり、と何かが混み上がってきそうで、私は慌てて席を立った。
トイレの手洗い場で手を洗い、私は一呼吸つく。
鏡には、私を睨みつける私が映っていた。
混み上がったのは、涙じゃない。怒りだ。
昔のことを思い出すことはあった。でも、前は怒りなんて混み上がらなかったのに、どうして。
誰に対して怒っているのか、私自身にもわからなかった。
「せっかく楽しいと思えたのに」
私のひとりごとは、流水の音とともに消えていった。