完璧ブラコン番長と町の謎

番長に呼び出されました

 ■

「小野あかりさん、いる?」

 昼休みの喧騒でもよく通る声に、うとうとしていた私はハッと顔を上げた。
 教室の入口には、女の子が立っている。

「私だけど、ええと」
「篠塚千尋。千尋でいいわ」

 ハキハキした言葉と、揺らがない真っ直ぐな目には、自信が満ちあふれている。それに姿勢も体幹もよさそう。艶やかで真っ直ぐな黒髪を腰まで伸ばして、横髪は戦国時代のお姫様みたいにカットされている。まるで、大河ドラマから飛び出してきた俳優さんみたい。
 すごい美人さんだなあ、と目を奪われながら、私は続けた。

「千尋さん、何か用?」

 私がそう言うと、少しだけ声を潜めて、千尋さんが言った。
 
「私じゃなくて、冬夜がね」

 その名前を聞いて、私はひゅっと喉を鳴らした。

「授業が終わったら、オカルト研究会に来て欲しい、ですって」

 どこだそれ。
 私が目を丸くすると、「時間になったら案内するわ」と言われる。

「ああ、もちろん。何か用事があれば、今日は無理って伝えておくわよ」
「や、行く。行きます」

 多分昨日のことを聞きたいんだろう。私も、冬夜くんが何者なのかハッキリさせたいし。
 私がそう言うと、わかったわ、と言って、千尋さんは颯爽と去った。
 私はちら、と後ろを見る。
 彼の席には、誰も座っていない。そう言えば今日は、姿を見てないな。お休みかと思っていたけど、授業をサボっているだけ?

「……番長、か」

 今朝の店長の興奮ぶりを思い出して、私は天井を仰いだ。
 古田冬夜。店長いわく、学校どころか、この町で有名な男の子――もとい、番長らしい。
 まさか、令和にもいるとは。番長。


< 3 / 50 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop