完璧ブラコン番長と町の謎
「売られたのよ。私。お母さんに」
夏樹くんの顔色が、サッと青くなった。
「霊能力者の家系である小野家が、私を引き取るって言ってね。お母さん、お金と引き換えに私を売り飛ばしたの。
私の父親は蒸発して、一人で育ててたし。お金がなかったんでしょうね」
最初は、単に、知らない所へお泊まりしに行くんだと思っていた。けれど、何も分かっていない私を見かねて、小野家の人が説明してくれた。
それを知った時、なんで、と私は問い詰めた。どうしてお母さん、私を売ったの、って。
そもそもお母さん、私がいくら言っても、妖怪とか、幽霊とか、信じなかったじゃん。それを相手にする人の言うことを信じるの、って。
うるさい、と母は言った。
私の大切にしていた貯金箱を、私の大切なものの上で叩きつけて壊す。
『アンタのせいで、あたしの人生が台無しになった! 働いてもすぐにクビになったし、お金も全部アンタに消えてった! だから金で返しなさいよ! ――あたしの人生、返してよ!!』
……もう、ダメなんだな。そう思った。
どうしてこんな人間を、母親だなんて思っていたのか。どうして私は、こんな人間に対して、罪悪感を抱いていたのか。
何もかも馬鹿らしくなって、真面目に彼女の暴言を受け取っていた自分が、とても恥ずかしくなった。
夏樹くんが、おろおろと私を見る。
……やっぱり、話すべきことじゃなかった。
冬夜くんみたいな目だったから、つい、何でも受け流してくれるんじゃないかと甘えてしまった。
「ごめんね、こんな話をして。でも、知っていて欲しいの。家族って、皆仲良しってわけじゃないってこと。仲直りとか、どうしようもない家族もいるってこと……」
あれだけ酷いことを言われても、私は母を憎みきれないでいる。
憎み切れない、とは違うのだろうか。だけど、ふとあの人に言われたことを思い出しては引き戻される。
もう一人の自分が、「あの女をズタズタにしてやりたい」と思うほど激しく怒っていて、そんな自分を見て泣いている。
忘れたらいいのに。
恐れるのも憎むことも悲しむこともやめて、ただ、忘れたらいいのに。
「だからね、夏樹くん。冬夜くんと、ずっと仲良くして欲しいな。それは私には、出来なかったことだから」
「それ、あかりねーちゃんは?」
私の言葉に被せるように、夏樹くんが言った。
「あかりねーちゃんは、俺たちとは仲良くしてくれねーの?」
「そりゃ、もちろん仲良くしたいよ。でも、私は家族じゃないし、」
「家族みたいなもんじゃん!」
夏樹くんが叫ぶ。
周りの子が、何があったんだ、という感じに、手を止めてこっちを見ていた。
「そ、そりゃ、アカの他人? だけど、あかりねーちゃんがそんなこと言われてたら、俺、怒るよ!? そんなの、視えるとか視えないとか関係ねーじゃん! ムスメをモノ扱いすんなって、怒るよ!?
俺、あかりねーちゃんがそんなことを言われるの、俺、……」
そうやって、夏樹くんはボロボロと涙をこぼした。
……ああ、優しいなあ。
夏樹くんは、こんな風に、誰かのために泣ける子なんだ。
「~~っくそ! すぐ泣ぐ自分が嫌になる!」
「わかる~。感情がたかぶると、泣きたくないのに泣いちゃうんだよね~」
私は明るく同意した。
けれどキッ、と、夏樹くんに睨まれる。
「ねーちゃんは明るく言わない! もっと怒るべき!」
「え~。私、結構怒ってるけど」
「もっと! ちゃんと! 怒れ!!」