完璧ブラコン番長と町の謎

番長は弟くんを溺愛している

 向かったのは神社と公民館とが併設された公園で、今はもう散ってしまった桜の木が植えられている。代わりに、もう藤棚の花が咲き始めていた。
 その下にあるテーブルに、男の子が座っている。

 歳は小学校中学年から、高学年ぐらい。
 横顔からしか見えないけど、ツンツンした髪型に、利発そうなつり目の目をしている。
 そして、男の子の前に座っているのは、肉のかたまりをした生き物が、着物を着ていた。
 妖怪だ。
 男の子が、妖怪と話している。

「ナツ!」

 ワントーン高く、大きな声で、冬夜くんが呼んだ。
 ナツ、と呼ばれた男の子は、こちらを見て、ぱっと顔をかがやかせる。

「にいちゃーん!」

 走ってくる男の子に対して、冬夜くんが腕を広げる。

「ナツー‼」

 公園のど真ん中で、あはは、うふふ、と抱き合ってグルグル回る小学生男子と中学生男子。
 クールなイメージから、デレデレ……というには語弊があるけど、他に形容詞が見つからない。あまりの変わり具合に、私はあっけにとられた。
 

「今、誰かと話していたか?」
「うん。コッペパンから」
「ははは、お腹がすきそうな名前だな。もらったもの食べてないよな?」

 ひたすらぐるぐる回って、冬夜くんはナツ、と呼んだ男の子を地面におろす。

「ナツ、この人は兄ちゃんのクラスメイトだ。小野、俺の弟の夏樹だ」
「ども!」
「あ、初めまして。小野あかりです」

 情報量が多すぎて、どこから聞けばいいのかわからない。
 とりあえず、昨日と今日の共通点を探して、私は夏樹くんに尋ねた。

 「……ねえ、夏樹くん。君、視えるの?」
 
 そう尋ねると、夏樹くんはきょとんした後、鼻息を荒くしながら目を輝かせた。
 
「え⁉ もしかしてあんたも視えるの⁉ じゃあコッペパン見える!?」
「う、うん。肉のかたまりが着物着てる」

 そう答えると、さらに夏樹くんは目を輝かせ、跳び付いてきた。
 体重がそのまま衝撃になって、みぞおちを襲う。

「すげー‼ 俺と同じ!? 初めて見た!」
「う、うん。……初めて?」

 私は思わず、冬夜くんを見る。
 冬夜くんは、右目を覆うように頬に触れた。

「ああ。――俺は、視えないんだ」
「……え」

 意外な事実に、私は目を丸くした。

「そのことについては、後で説明させてくれ。ナツ、肉のかたまりの妖怪、もしかして『ぬっぺふほふ』と名乗ったんじゃないか?」
「あ、そんな名前だった」
「『ぬっぺふほふ』って……あ、『ぬっぺっぽう』!? 冬夜くん、そんなマイナーな妖怪のこと、よく知っているね!?」

 そして『コッペパン』とは『ッペ』しか合ってないよ、夏樹くん‼ よく推測できたね冬夜くん!

「コッペパン、なんか困ってるみたいなんだ」
「困ってる?」
「うん。なんか話が長くて、俺にはわかんねーんだけど」

 そのとたん、頭の中で何かが流れ込んでくる。
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