結婚について、本気出してみた。
筒香花菜は、幼稚園の「しょうらいのゆめ」の欄に、つたない文字で、「ケーキやさん」と書いた。
甘いものは昔から好きで、このメンチカツが仮に今、バウムクーヘンに変わったって、一向にかまわない。
父親は、和菓子職人だった。母親は、そんな父をなぜか心底嫌っていて、筒香花菜が8歳の頃に離婚した。
「どうして離婚したのよ?」
と筒香花菜のおばさんにあたる人に、筒香花菜の母親は問い詰められた。
「私って、洋菓子の方が好きだから」
「じゃあ、なんで結婚なんてしたのよ?」
「その時は、和菓子が好きになれそうだったの。でも、結婚して、一緒に居れば居るほど、どんどん嫌いになる自分がいるの。いくら甘いものが好きな人だって、毎日それだけを、大量に食べろって言われたら、嫌にもなるでしょ? それと大体同じ感じだと思う」
筒香花菜に母親はしょっちゅう言っていた。
「結婚はね、ワンちゃんを飼うようなものなんだよ」