結婚について、本気出してみた。
セイヨウタンポポを一本ちぎって、それをパーカーのポケットに入れた筒香花菜。
アパートの階段を上る。ギシギシと軋むこの階段が、いつか、ガラガラと音を立てて崩れるところを想像しながら上るのに、密かにハマっている筒香花菜。
別に意味はない。もちろん死にたい欲求なんてものもない。ただ、何となく、自分の足元がガラガラと崩れ落ちる瞬間ってなかなか訪れるものじゃないから、一体どんな感じなんだろうという好奇心だけ。
204号室のドアを開けながら、ふと203号室の方を見る。すっかり履き慣らされて、足の形がくっきり付いているサンダルが、まるでドアストッパーみたいにドアが閉まるのを邪魔している。
「あの……生きてますか?」
203号室のドアの向こう側に声をかけた。これも好奇心。
声をかけると、白いモヤの中に人影があって、カンバラ息子がぬっと、振り返った。
「ああ、キミ。えっと……」
「筒香です。隣の部屋に越してきた」
「そうそう。筒香さん、筒香さんね」
カンバラ息子が、むくっと立ち上がって、玄関に近づいてきた。