結婚について、本気出してみた。
入院病棟には、談話室があって、そこには自販機や電子レンジ、テレビ、新聞、雑誌なんかが置かれている。
その談話室で点滴台を転がして、紅茶を買いにきた筒香花菜。
その帰りの廊下で、ばったりと「若井昌磨」先生と出会う。
「筒香さん。歩けるようになったんですね」
「ええ、まだ点滴台にすがってですけどね」
「それでも十分です」と若井昌磨が笑った。
「あ、そうだ。聞いてくださいよ。昨日、勝ったんですよ!」
「それは、自転車ですか? ボートですか? 馬ですか?」
「馬です。午後から休みがとれたんで、行ってきたんです。パドックというレース前の馬が見れる場所があるんですが、そこでやけに黒光りしている馬がいましてね、長年の経験では、こういう馬が来る時が5年に1度くらいの確率で訪れるんですよ。それに夢を乗せたら、見事万馬券になりましてね」
「それはよかったですね」と筒香花菜はあまり興味なさそうに答えた。