相会い傘歌
今日は朝から雨が降っていたにもかかわらず、なんで一本も傘が余ってないの?

どう考えてもおかしいでしょ。

盗みやすそうなビニール傘ならいざ知らず、あんな可愛い傘をわざわざ持って行った犯人の心理が分からない。

せっかく悪くない気分だったのに。


私は心の中で顔も知らない犯人に悪態をつくと同時にため息し、暗くなりかけている外に目をやった。

出入り口の前に立って空模様を伺うと、依然として雨は降り続けて止む気配はない。

「どうしよっかな…」


途方に暮れたあげく、駅までびしょ濡れになりながら走る覚悟を決めようとした私は、そこで背後からスノコを歩く音を聴いた。

誰かが下駄箱の戸を開いたらしい。

パンッと、石畳を靴の裏で軽く叩いたような音が昇降口に響いた。
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