万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります
 歌っている者どもを一人残らずこの世から消さなくちゃ、と、王女が一人で憤っているころ、天帝は下界への窓を開いた。
 あまりに莉々の覚醒が遅いため、心配になったのだ。
 玉華と泰山娘々が毎日のように「莉々の強制覚醒を!」と訴えてくる。が、天帝としては、莉々の魂に傷がつく恐れがある荒業を、出来ることなら使いたくなかった。
 だが、悠長なことを言っている場合ではなさそうであった。
 じっと下界を眺めた。天帝への賛歌はいよいよ声高く、聞こうとするまでもなく届いている。
「やれやれ……どうしてこう、荒っぽい王女が生まれたかな」
 奇妙な雄たけびをあげた王女が、髪を振り乱しながら走り回る。
 廊下に飾ってあった甲冑を蹴倒して槍をもぎ取り、ぶんぶん振り回しはじめた。
 なにごとかと駆けつけた兵士がなぎ倒され、吹っ飛ばされる。
 武術の心得のない女性が振り回す武器など軍人なら止められそうなものだが、狂ったように振り回される武器は、危なくて仕方がない。
 振り回しているうちに、コツを掴んだのだろう、王女は正しく槍を構えてしまった。
 三人、四人と犠牲者が出る。

「ええい、莉々。とっとと目覚めよ! ほれ、目覚まし時計の音じゃ」

 天帝は、玉華から預かった『スマートフォン』を操作した。
 莉々が生前、朝起きる時に使っていた音楽を流した。

――う、うう? アラーム……起きなきゃ……

 いいぞ、と天帝は拳を握った。が、莉々が目覚めようとするよりも、王女の意思の方が強く、莉々の覚醒を妨げる。
「ふぅむ、これは強制覚醒を行わねばならんか」
 天帝は、手にしていた呪札を荒れ狂う王女に向けてはなった。それは稲妻と化した。
「……しまった、それでも強すぎたか?」
 民の、王女に対する怨嗟が強すぎた。
 罰を望む民の気持ちが、天帝の術に過剰に干渉し過剰な『奇跡』を招いてしまった。
 
 城内や城下町で、賛歌を唱えていた人々は見た。
 雲の切れ間から光が降り注ぎ、城を中心としたあたりを煌々と照らしたかと思うと、二度三度と、落雷があった。
 城壁や尖塔がいくつも壊れ、何人もの人が衝撃で吹っ飛んだ。
 その吹っ飛んでけがをした人の中に、王女の姿があった。王女の可憐な顔は大きく傷が出来、頭部や額から、夥しい血が流れた。

 それから数か月。
 民は、驚愕する。
「意識を取り戻した王女は、まるで別人のようであるらしい」
 そんな噂が流れた。
「わがままもぜいたくも、まったく興味を示さないらしい」
「まるで、雷で吹っ飛ばされて生まれ変わったかのような……」
「じゃああれは、天罰だったのか?」

 当然である。
 本物の王女は稲妻とともに消滅し、覚醒した莉々が王女の肉体を動かしているのだから。
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