万能王女は国のために粉骨砕身頑張ります
どう変かと言うと。
丈の短い上着に、ウエストラインがずいぶん高いロングスカート。現代日本で着ている人はまず見かけない。しかし、どちらも光沢のある白い生地に銀糸の繊細な刺繍が施されているから、安物ではないだろう。
昔話に出てくる天女の羽衣のような半透明のひらひらも装備し、スカートも羽衣も風に靡いている。
そして長い黒髪も毛が複雑に編んであって、輪っかになっているし、かんざしがいくつも刺さっているしで、やっぱりどうみても天女のようである。
「天女、間違ってないわね。わたしは天帝にお仕えする女官の一人よ。あなたのお父さんと人界で恋に落ちて、下天していたの。わけあって泰山に呼び戻されて……幼いあなたを一人、人界に残さざるを得なかったの。ごめんなさいね」
死に別れた理由が、そんなとてつもない理由だったとは。莉々の目が点になったが、母はお構いなし。
「え、と……テンテイ? ニョカン? タイザン?」
知らない単語のオンパレードである。
「あ……いいの、細かいところは。とにかくあなたは天界人の血を引いているのよ。まぁそのあたりも、おいおい理解してちょうだい。あのね、天帝が、あなたに会いたいと仰せなので一緒に行きましょう」
どこへ? どうやって? 誰が天界人? と、莉々の顔に書いてあったのだろう。
母は、おっとりと笑った。
「人界でも天界でも基本は同じよ。聖廟へ行って、会いたい神の賛歌を唱えればいいの」
覚えておくといいわよ、と、母が笑う。覚えたところで、この先使い道はあるのだろうか。
「賛歌?」
「ええ。神を讃える歌よ。歌と言ってもJ-POPや演歌ではなくて……そうね、お経や真言のようなモノ、と言えばわかるかしらね」
わかるような、わからないような。莉々の目が白黒する。
「で、それを何回歌うの?」
「さぁ……数回で道が開くこともあれば、一千回でもダメなこともある。けれど一昼夜根気よくやれば、たいてい、神本人か側仕えの女官が根負けして道を開いてくれるわ」
一昼夜。
卒倒しそうである。しかし、すぱっと道を開いてくれないとは天界とはなかなかケチなのではなかろうか。
「何言ってるの。あなただって、一昼夜ぶっとおしでお仕事、してたじゃない。同じよ」
「えええ……? なんか違う気がするけど……」
「眠ることなく作業するのよ、同じよ」
ころころと笑う母につられて、莉々も笑った。
下界では、いよいよ出棺であるらしいが――莉々の関心はもう、下界からは逸れていた。